新型コロナウイルスはなかなか終息しそうにありません。学 校は休校に、多くのイベントが 中止になりました。外出を控える人が増えて、経済も大変な混 乱状態です。私のクリニックも キャンセルが増えています。講 演も延期あるいは中止になって土日がぽっかりあいたので、たまっていた原稿を書こうと思っ ています。
ウイルスと細菌とはどう違うのですかという質問がありまし た。一番大きな違いは、細菌は生物ですが、ウイルスは生物なのか生物ではないのか微妙だというところです。ウイルスの構造は非常に単純で、遺伝子情報を伝える核酸のまわりをタンパク質の殻が覆っているだけです。生物である細菌と違って単体では生 きられないので、動植物の細胞に入り込んで栄養やエネルギー を奪い取って増殖します。細胞 内でどんどん増殖し、外へあふれ出たら別の細胞に入り込むという形で勢力を広げます。せきやくしゃみなどによる飛沫と一 緒にまわりの人へも感染します。 ウイルスに入り込まれた細胞は本来の働きができなくなってしまいます。肝細胞がウイルスにやられれば、肝臓内にウイルスが広がり、肝機能が低下します。
原因が細菌であるかウイルスであるかで感染症の治療法も違ってきます。細菌の場合は、みなさんご存知の抗生物質が使われます。細菌の細胞壁を破壊したり、分裂できないようにして体内で細菌が広がるのを防ぎます。ペニシリンとかストレプトマイシンといった薬があります。 抗生物質ができて、たくさんの感染症が克服されました。結核 もそうです。かつては不治の病として恐れられましたが、今は 抗生物質で簡単に治る病気になりました。
しかし、細菌も生き物ですか ら、自分たちを滅ぼそうとする力があれば、それに対抗してより強くなろうとします。いわゆる多剤耐性菌と言って抗生物質 が効かない細菌に変異するのです。近年、抗生物質が濫用されたことで、私たちは多剤耐性菌に苦しめられています。人間の側はより強力な薬を開発する。細菌はそれに抵抗できるだけの力をつけようとする。いたちごっこになっているのが現状なのです。
ウイルスの場合は抗ウイルス剤を使います。しかし、ウイルスは宿主の細胞に依存して生きています。そのため、ウイルスだけを叩くのはとても難しく、抗ウイルス剤を使うことで正常な細胞にもダメージを与え、副作用が出ることも多く、まだまだ工夫が必要な段階です。特効薬が開発されたとしても、ウイルスは変異して耐性をもつはずです。ここでもいたちごっこが起こってしまうのです。
となると、頼れるのは自分のもっている免疫力ということになります。
ウイルスと免疫力のお話をします。免疫というのは、自己と非自己を見分けて、非自己と判断したら排除するシステムのことを言います。免疫システムはとて複雑で、まだ全容は解明されていません。感染症だけでなくがん治療でもとても重要な鍵を握ると思います。これから研究が進むのがとても楽しみな分野です。
ウイルスが体内に侵入すると免疫はどう働くのか、極々簡単に紹介します。ウイルスに入り込まれた細胞は異常事態が発生したという信号を外に向けて発します。白血球の一種であるマクロファージが信号をキャッチし、感染している細胞を食べ、感染した細胞がどういう信号を出しているかをリンパ球に伝達するのです。マクロファージからの情報をキャッチしたリンパ球は、ウイルスに対する抗体を作って、ウイルスに感染した細胞を排除します。そうやって感染から守ってくれているのです。