vol. 150

呼吸法に取り組んで免疫力を高めコロナに立ち向かう

養生の国・中国には数えきれないほどの呼吸法がある

 コロナが一向に終息しないので不安に思っている方も多いことでしょう。ワクチンについてよく聞かれますが、ワクチンにしても治療法にしても、万人に効果があるものはないと思った方がいいと思います。インフルエンザも、毎年ワクチンを打っているのにいつも感染すると言う人はいます。

 ワクチンの相談を受けたとき、私はこう答えています。

「コロナが怖くて不安な人は打ってください。平気な人は打たなくていいのではないでしょうか」

 私は日頃から太極拳をやっていますので、コロナへの不安はまるでありません。だから打つつもりはなかったのですが、事務の責任者から、「先生が受けないとしめしがつきません」と言われたので、仕方なく打つことにしました。インフルエンザのワクチンも医療者は義務になっていますので、毎年打っていますが、義務でなければ、打たないだろうと思います。ワクチンを否定しているわけではありませんが、人間には免疫力という強大な味方がついています。免疫力をしっかりと鍛えておけば、インフルエンザだろうとコロナだろうと大丈夫だと私は信じています。私の患者さんであるがんの方たちは、一般的には免疫力が低下していると思われますので、ワクチンも含めて、免疫力をいかに高めるかを考えるようアドバイスしています。コロナをきっかけに免疫力を高めれば、それががんに対して効力を発揮する場合もあるでしょう。

 免疫力を高めるにはいろいろな方法があります。食事も運動も大切です。

 私は呼吸法を重視しています。中国には数え切れないほどの呼吸法があります。健康長寿にこだわる国ですから、そこで呼吸法が広がっているのは、健康法としてすぐれているからでしょう。

 中国の呼吸法のルーツは「吐納(とのう)法」と呼ばれ、養生の根幹をなしています。

 吐納とは、「古きを吐いて、新しきを納める」という意味です。

 東洋式の呼吸法は吐く息に重点が置かれているのが特徴です。普通の呼吸では、吐く息、吸う息を意識することはありません。自然に吐いて吸っています。

 それでも、呼吸は酸素を取り入れてエネルギー源にするものだという考え方が定着していますので、吸う息にウエイトが置かれるのは仕方のないことです。深呼吸をするとき、ほとんどの人は思いっきり息を吸い込むと思います。これは西洋式のやり方です。

 東洋式の呼吸法は、吐く息を意識します。吐くときに神経を集中し、静かにゆっくりと吐き出すことが大切です。

 免疫力を高めるためには、東洋式の吐く息を重視した呼吸法を行なってほしいと思います。

 吸う息と吐く息の違いを医学的に見ていきたいと思います。私たちの体内には、内臓や血管、筋肉の働き、体温の調整などを司っている自律神経と呼ばれる神経があります。自律神経失調症という病名をお聞きになったことがあると思います。特別な病気があるわけではないのに、自律神経が不調のために頭痛、めまい、肩こり、胃もたれ、下痢などの症状が起きるものです。

 自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は内臓の働きを高めたり興奮させたりします。副交感神経はリラックスさせる神経です。

 2つの神経が、昼間は交感神経が優位になって活動的にさせ、夜は副交感神経が優位になって心身をゆったりとさせるように働いています。

 自律神経は呼吸とも大いに関係があります。息を吸うときには交感神経が働き、息を吐くときには副交感神経が働きます。びっくりしたとき、恐怖を感じたとき、ハッと息を吸うと思います。交感神経を優位にして、逃げたり戦ったりする体勢を作るのです。

長くゆっくりした呼吸法で副交感神経を優位にする

 反対に、息をしっかり吐くようにすると肩の力が抜けて、心が落ち着きます。温泉につかったとき、はーっと息を吐く人は多いのではないでしょうか。こころもからだもリラックスするからです。

 現代人は、ほとんどの人がストレス過多で、こころもからだも緊張状態にあります。夜遅くまで仕事をしている人もいますが、日が沈めば、人間のからだは休む状態になりますから、本来は副交感神経が優位でないといけないのです。深夜まで仕事をしている人は、どうしても交感神経優位のままベッドにつくことになって、いい睡眠がとれなくなってしまいます。

 副交感神経が働くとリンパ球が増えて免疫力が高まるという説もあります。

 自律神経は、私たちの意志ではコントロールできません。唯一できる方法が呼吸法です。忙しいとき、イライラしているときの呼吸を観察してみてください。短くて早い呼吸になっているはずです。リラックスしていると長くてゆっくりと呼吸をしているのではないでしょうか。

 長くてゆっくりした呼吸を心掛ければ、副交感神経が優位になって、免疫力も高まるはずです。そのためにも、吐く呼吸を意識することです。ゆっくりと長く吐く。起きたとき、寝るときに、数回でいいので、長くゆっくりと吐く呼吸法をやってみてください。それだけでも免疫力は高まるはずです。

 東京大学教授や都立駒込病院の院長などを歴任された二木謙三先生(1873年〜1966年 5月号対談の二木謙一先生の祖父)は、西洋医学の権威でありながら、玄米食を提唱されたり、腹式呼吸に取り組んだことでもよく知られています。

 二木先生は、江戸時代の国学者・平田篤胤の書物を参考に、自分流の呼吸法を編み出しました。どんな呼吸法なのか紹介しましょう。『先哲実験腹式呼吸篇』(春秋社)という本には次のように書かれています。

「息を吸う時は腹の膨るるように、且つ少し腹の外から押してみて、固くなるように息を吸い、あまり努まんでも少しこらえて精神を落着け、それから静かに出す、出す時に腹が凹んで沢山でなく可なりに凹んで、腹に在る空気が胸を通って外へ出て、下腹には少々残る様に出す、出したところでやはり腹を固くし、少し精神を落着けてそれから又吸う、吸うと前の如く腹が少し出て固くなる、気を落着けておいて又出す。吸う時より吐く時に注意して力を入れ、且つ長く徐々と出すことが肝腎である」

 いわゆる息を吸うときに腹を膨らませ、吐くときに腹をへこませる順式の腹式呼吸法です。

 世の中にはさまざまな呼吸法があります。何が正しくて何が間違っているということはありません。二木先生は順式の腹式呼吸法をやっておられましたが、私が習った調和道丹田呼吸法は逆式の腹式呼吸法です。吸ったときにお腹をへこめ、吐いたときにお腹を膨らませます。

 やり方にこだわらず、自分に合うもの、長く続けられるものに取り組むといいのではないでしょうか。短期間にすぐ効果が出るというものではありません。1年2年と続けてこそ、呼吸法のすごさはわかります。

 ぜひ、何らかの呼吸法に取り組んで、免疫力を高めて、コロナに立ち向かっていただければと思います。