帯津良一
vol. 134

治療の選択肢はいくらでもある。一つにこだわらない

物質性を排除し、エネルギーだけを活用するホメオパシー

 ホメオパシーのお話をしたいと思います。18世紀から19世紀にかけて、ドイツ人医師のサミュエル・ハーネマンが体系化した治療法です。ホメオパシーの魅力はエネルギー医学(場の医学)を理解しないとわからないと思います。もちろん、氣功をやっている人はわかってくれるでしょう。

 西洋医学的な考え方だと、熱があれば熱を下げる、下痢をすれば下痢を止める作用の薬を処方します。ホメオパシーはその逆で、熱がある人には、人を発熱させる成分を処方するのです。ホメオパシーの薬をレメディと呼んでいます。

 レメディは、徹底的に希釈されているところがポイントです。半端な希釈ではありません。成分が一分子も入っていないくらいに薄めます。西洋医学を信奉する人は成分が入ってないのに効くはずがない、ただの水だと否定します。私は長くホメオパシーをやってきましたが、劇的に効果がある場合が決して少なくありません。ただの水ではそんな効果が出るはずがないのです。

 なぜ成分が入ってないのに効果があるのか。その理由は場の医学で説明できます。希釈することで物質性をすべて排除し、原料のもつエネルギーだけを患者さんのもっているエネルギー場に働きかけさせることで、自然治癒力を高めるのです。

 レメディの中にはヒ素のような、そのまま飲めば毒性のある原料を使っているものもあります。しかし、レメディには成分が含まれていませんので体調が悪くなることはありません。徹底的に薄めてヒ素のもっているエネルギーだけを使うことによって生命力を賦活することができるのです。

 氣功師から氣を受けるという治療法でも、手から何が出ているか検出できないのに、体にさまざまな反応が出て体調が良くなることがあります。病気を良くするのは成分だけではないのです。

 診断の仕方も独特のものがあります。患者さんから、その人の生い立ち、家族構成、考え方、生活習慣などを徹底的に聞きます。患者さんの全体像をとらえた上でレメディを処方するのです。

 それをナラティブ・ベースド・メディスンと呼んでいます。ナラティブというのは患者さんの人生物語という意味です。西洋医学はエビデンス・ベースド・メディスンと言って、エビデンス(科学的な根拠)がないと信じてもらえない医学です。両者は根底が違います。だからなかなか理解し合えないのです。ホリスティック医学という視点で見れば、どちらも正しく、どちらも有効な医学なのに、今の医学の意識はそこまで広がっていません。西洋医学がホメオパシーを理解しないだけでなく、ホメオパシーをやっている医師が西洋医学を批判することもよくあります。ホメオパシーにとっては、西洋医学の知識や経験は邪魔だと言う人もいます。私にははなはだ疑問です。

 私は、西洋医学もホメオパシーも、長所・短所があるわけだから、両方のいいところをとって治療をしようと考えています。

 たとえば診断と検査です。西洋医学の検査の技術の発展には目を見張るものがあります。初期の段階で的確に病気を見つけることができます。これを利用しない手はないと、私は思います。花粉症も、何に反応して発症しているのか、ぱっとわかります。西洋医学の知見で正体を素早くつかまえて、それからホメオパシーを用いるほうが効率的なのです。

ホメオパシーも漢方薬も氣功もうまく使う統合医療を

 私が心掛けているのは、ホメオパシーにしても漢方薬にしても氣功にしても、特殊な治療にしないことです。統合医療のひとつの戦術で、患者さんを治療するための戦略の一要素として考えます。将来は、ホメオパシーというジャンルがなくならないといけません。漢方薬も氣功も同じです。すべての治療法が融合して統合医療の中に入ってしまわないといけないのです。

 ある患者さんを治療していて、ホメオパシーでもっとも有効だと思って進めてきたが思ったような結果が出ないとき、漢方薬を使ったらすごく効いたというようなことはいくらでもあります。ホメオパシーにこだわって、これだけで何とかしようと思うのは、患者さんの苦痛を長引かせることにもつながりかねません。

 痛みがあって来院される方がいます。きつい薬は嫌なのでホメオパシーでお願いしたいと言われれば、痛みに効くレメディがありますからそれを処方するようにしています。しかし、中には数日後にあるお子さんの結婚式に出席したいので痛みを取りたいという患者さんもいます。ホメオパシーでは時間的に間に合わないときには、私は西洋医学の鎮痛剤をすすめます。

 西洋医学の薬は対症療法ですから時間がたてば痛みも戻ってきます。しかし、結婚式への出席を優先するなら、まずは痛みを取ることです。お子さんの結婚を笑顔でお祝いしてから、痛みを根本的に治癒させる方法を一緒に考えればいいのです。時間はかかるかもしれませんが、ホメオパシーや漢方薬はその役に立てるはずです。氣功にも取り組んでくださるともっといいだろうと思います。

 世の中には理屈ではわからないことがいくらでもあります。たぶん、人体について西洋医学でわかっているのは足の裏からくるぶしくらいの割合です。ほとんどわかってないと言っていいでしょう。まして、こころやいのちにまで範囲を広げれば、限りなくゼロに近くなります。西洋医学は、ほとんどわかっていないことを前提に使うべきです。だからと言って無力ではありません。使い方を間違わなければ役に立ちます。ホメオパシーや漢方薬、氣功でも同じです。人間のことはほとんどわかっていません。医療にかかわる人はもっと謙虚になって、いのちに対して畏怖をもって接するべきです。

 私は患者さんに、これさえやれば治ると断定的なことを言う医者や治療家を信用しないほうがいいとドバイスします。苦労していない医療者ほど、何でも治るというあり得ないことを平気で言うものです。

 ホメオパシーから統合医療の話になってしまいましたが、治療にはさまざまな選択肢があります。治療法を組み合わせることで大きな効果が出ることもあります。これしかダメだと決めつけないで、頭を柔らかくして治療法を選択してください。