帯津良一
vol. 135

氣功は遊び心をもって長く続ける

長く続けるとからだが氣功の動きを覚えてしまう

 何事も続けることが大切です。 特に氣功は継続しないことには 意味がありません。一週間やって 病気が治るような効果が出るも のではありません。

 私はほぼ毎朝、太極拳をして います。たった一回、時間にすれ ば10 分くらいのものです。もう40 年近く続けています。どんな ところにどのような効果があっ たかを説明することはできませ んが、私の生命場を高めるには 大いに役立ってくれていると思 います。延命十句観音経という 短いお経も、1日1回、ほんの1 分ほどで唱え終わりますが、こ れも 20 年以上続けています。

 氣功を続けていてプラスにな ると思えるのは、たとえ週に1 回しかやらなくても、長く続け ていると、からだが氣功の動き を覚えることです。歩いている ときも、仕事をしているときも、 お風呂へ入っているときも、食事 をしているときも、一つひとつの 動作が氣功的になるのです。呼 吸のリズム、それに合わせたか らだの動き、普通に生活してい るのに、それが氣功になっている ことがあります。

 ですから、氣功をやるときに は、あまりストイックにならず に、遊び心をもって、大いに喜び を感じながら行うといいでしょ う。毎日やらないといけないと 思うと、なかなか続きません。1 週間に1度であっても、 10 年た てば 10 年の氣功、 20 年たてば 20 年の氣功になります。

 ウイスキーも熟成するには一 定期間寝かせる必要がありま す。ただがむしゃらにやるのでは なく、何もしないで放置するこ とも上達の秘訣です。そういう つもりで懐を深くしてやってい くことが望ましいと、私は考え ています。

 中にはまなじりを決して氣功 に集中することで難病を克服し た人もいます。郭かく林りん新気功とい う歩く氣功があります。中国の 郭林さんという女性が自分のが んを克服するために考え出し、 実際にこの氣功を続けることで 元気になったこともあって、がん の患者さんにはとても人気があ ります。私の知り合いが北京で がんの患者さんにこの氣功を指 導しているのですが、1日に6 時間もすると聞いてびっくりし ました。私などは、そんなに長く やらなければならないと聞くだ けでストレスを感じてしまいま す。人それぞれです。長時間の氣 功ができる人はやってみるのも いいのではないでしょうか。

 岡山県に郭林新気功でがんを克服したツワモノがいます。私はこれまでたくさんの氣功の達人を見てきましたが、彼の氣功もすばらしいものでした。がんになったときに1日に10時間もやったおかげだと笑っていました。1日のほぼ半分を氣功に当てたというのですから驚きです。

 彼は下咽頭がんでした。手術を受ける決心をしましたが、食べられなくなったり、話せなくなる後遺症もあると聞いてショックを受けました。とにかく手術のダメージを最小限に抑えようと、手術前に徹底的にからだを鍛えたそうです。

 まずは、入院した病院の階段を何度も走って上ったり下ったりしました。足腰を鍛えようといういうわけです。さらに、免疫力を高めるために、サプリメントを通常の3倍飲みました。そうやって手術に備え、術後はダメージから少しでも早く回復できるようにと郭林新気功を集中してやりました。

 そうした努力の甲斐があって、手術はうまくいきましたし、ほとんど後遺症もなく普通に食べたり話せたりするようになりました。ゆっくりがいいのか、集中してやるのがいいのか、自分の性格も考えながら取り組み方を考えてみるといいのではないでしょうか。

いのちのエネルギーがあふれ出ると人相が良くなる

 私の病院では、入院患者さんのほとんどが西洋医学や代替療法の治療を受けながら、氣功に励んでいます。

 15種類の氣功を週に30番組やっていますが、入院したばかりの患者さんは、よほど重症でない限り、月曜日から土曜日まですべての氣功に出ています。朝から晩まで道場に入り浸って、一生懸命に一つひとつの功法に励んでいます。しかし、1週間2週間とそんな状態が続くとさすがに疲れてきます。中には熱を出して寝込んでしまう人もいます。

 少しでも早く良くなりたい一心だと思いますが、たくさんやったから効果があるというものではありません。最初はいろいろな功法を体験するのもいいでしょう。体験しながら、自分にはどの功法が合っているか、相性を探るといいと、私はアドバイスをします。自分が伸び伸びとできて、やっていて気持ちがいいという功法があるものです。それが見つかったら、続けてやってみるというのが一番ではないかと、私は思います。

 病気ごとに功法が決まってはいません。郭林新気功も、がんを治そうという意図で作られましたが、だからと言って、がんにだけ効く氣功と決めつける必要はありません。氣功は、その人の自然治癒力を高める方法です。病気を選ぶことはありません。ただ、どういう気持ちで取り組むか、どれくらい継続できるかといったことが、効果に影響が出るのではないでしょうか。

 さらに言うなら、氣功は健康を維持したり病気を治すことだけを目的としたものではありません。私は生命場のエネルギーを高めて虚空とつながることが大事だと言っていますが、氣功を続けているうちに、生き方や考え方が変わってきます。自分のことばかりを優先するのではなく、穏やかで他者に対するやさしいこころがもてるようになります。それでいて、やるべきことには集中できるパワーが身につきます。からだの中でエネルギーが高まると、外へあふれ出ます。これが大事なのです。そういう人は人相を見るとわかります。何とも福々しい顔をしています。

 病院の道場で患者さんを見ていて、ひょいと気がつくと、いい人相になっている人がいます。ああ、いのちのエネルギーがあふれ出ているなとうれしくなってきます。いい人相になったけれども亡くなってしまう人もいます。そういう人はエネルギーを高めてあちらの世界に飛び込んで行きますから、決して不幸ではありません。

 私が尊敬する先輩に鎌田茂雄先生(故人)という方がいました。仏教史が専門で、東大で助教授をされたあと、駒澤大学の教授になりました。華ごんきょうの大家でした。

 鎌田先生は合気道の達人で、太極拳もお好きでした。あるとき対談する機会があって、先生はこうおっしゃいました。

 「太極拳は形ではありません。いのちがあふれ出ればいいんです」

 私もそう思います。何事も上手下手だけにこだわらず、いのちのエネルギーがあふれ出るまで続けるといいでしょう。