帯津良一
vol. 137

細菌もウイルスも薬を使えば使うほど耐性がつく

ウイルスは生物か生物ではないかよくわかっていない

 新型コロナウイルスはなかなか終息しそうにありません。学 校は休校に、多くのイベントが 中止になりました。外出を控える人が増えて、経済も大変な混 乱状態です。私のクリニックも キャンセルが増えています。講 演も延期あるいは中止になって土日がぽっかりあいたので、たまっていた原稿を書こうと思っ ています。

 ウイルスと細菌とはどう違うのですかという質問がありまし た。一番大きな違いは、細菌は生物ですが、ウイルスは生物なのか生物ではないのか微妙だというところです。ウイルスの構造は非常に単純で、遺伝子情報を伝える核酸のまわりをタンパク質の殻が覆っているだけです。生物である細菌と違って単体では生 きられないので、動植物の細胞に入り込んで栄養やエネルギー を奪い取って増殖します。細胞 内でどんどん増殖し、外へあふれ出たら別の細胞に入り込むという形で勢力を広げます。せきやくしゃみなどによる飛沫と一 緒にまわりの人へも感染します。 ウイルスに入り込まれた細胞は本来の働きができなくなってしまいます。肝細胞がウイルスにやられれば、肝臓内にウイルスが広がり、肝機能が低下します。

 原因が細菌であるかウイルスであるかで感染症の治療法も違ってきます。細菌の場合は、みなさんご存知の抗生物質が使われます。細菌の細胞壁を破壊したり、分裂できないようにして体内で細菌が広がるのを防ぎます。ペニシリンとかストレプトマイシンといった薬があります。 抗生物質ができて、たくさんの感染症が克服されました。結核 もそうです。かつては不治の病として恐れられましたが、今は 抗生物質で簡単に治る病気になりました。

 しかし、細菌も生き物ですか ら、自分たちを滅ぼそうとする力があれば、それに対抗してより強くなろうとします。いわゆる多剤耐性菌と言って抗生物質 が効かない細菌に変異するのです。近年、抗生物質が濫用されたことで、私たちは多剤耐性菌に苦しめられています。人間の側はより強力な薬を開発する。細菌はそれに抵抗できるだけの力をつけようとする。いたちごっこになっているのが現状なのです。

 ウイルスの場合は抗ウイルス剤を使います。しかし、ウイルスは宿主の細胞に依存して生きています。そのため、ウイルスだけを叩くのはとても難しく、抗ウイルス剤を使うことで正常な細胞にもダメージを与え、副作用が出ることも多く、まだまだ工夫が必要な段階です。特効薬が開発されたとしても、ウイルスは変異して耐性をもつはずです。ここでもいたちごっこが起こってしまうのです。

 となると、頼れるのは自分のもっている免疫力ということになります。

 ウイルスと免疫力のお話をします。免疫というのは、自己と非自己を見分けて、非自己と判断したら排除するシステムのことを言います。免疫システムはとて複雑で、まだ全容は解明されていません。感染症だけでなくがん治療でもとても重要な鍵を握ると思います。これから研究が進むのがとても楽しみな分野です。

 ウイルスが体内に侵入すると免疫はどう働くのか、極々簡単に紹介します。ウイルスに入り込まれた細胞は異常事態が発生したという信号を外に向けて発します。白血球の一種であるマクロファージが信号をキャッチし、感染している細胞を食べ、感染した細胞がどういう信号を出しているかをリンパ球に伝達するのです。マクロファージからの情報をキャッチしたリンパ球は、ウイルスに対する抗体を作って、ウイルスに感染した細胞を排除します。そうやって感染から守ってくれているのです。

熱が出れば解熱剤を投与すればいいというものではない

 ウイルスに感染するとだるくなったり発熱をすることがあります。熱が出るとどうしても解熱剤を使いたくなりますが、熱も意味があって出ていますので、下げるタイミングが大切です。

 多くの場合、リンパ球が働き出したころに熱が出ます。リンパ球が働いているからこそ、発熱があると言ってもいいかもしれません。熱が出始めたころは、リンパ球ががんばって感染した細胞を排除しようとしていると考えれば、そこで解熱剤を使ってしまうのは、リンパ球の働きを抑えることにもなります。

 もちろん、あまりにも高熱だったら、肉体的なダメージが大きくなりますので、熱を下げる必要があります。普通の発熱だったら、解熱剤を使うタイミングを少しずらし、リンパ球がしっかりと働いたあとに使うことも考えてもいいかもしれません。どうして熱が出るのか、その意味も踏まえて専門家に相談をしてみてください。熱は何が何でも下げなければならないものではないし、放っておいてもいいというものでもありません。

 私はホメオパシーという治療法をよく使います。西洋医学では、熱が出れば熱を下げる薬を処方します。ときには、肉体の治ろうとする働きを阻害することがあります。

 ホメオパシーは熱があれば、 健康な人に処方すると熱が出るような物質を投与します。しかし、 39度の熱がある人に発熱剤を出せば、40度41度と熱が上がる危険性があります。いったん上がったあとに下がる可能性はありますが、それでも高熱による患者さんのダメージは大きく危険が伴います。ホメオパシーを開発したハーネマンという人は天才でした。それなら徹底的に希釈してみてはどうだろうと考えたのです。

 どれだけ薄めるかというと、物質性がなくなるほどに薄くするのです。分子も存在しないほどです。よくホメオパシーの薬 (レメディ)は水だと言われますが、分析すればそのとおりかもしれません。

 しかし、ただの水ではありません。熱を上げるという性質をもった水です。つまり、氣が込められているのです。熱を上げる性質がソフトに作用して熱を下げる効果を発揮します。たぶん、自然治癒力に働きかけるのでしょう。ホメオパシーだと、リンパ球の働きを阻害せずに発熱を抑えることができるのです。

 西洋医学は緊急避難的に使うには最適です。大けがをしたときに出血を止めたり、心臓や脳の血管が詰まったときに血栓を取り除いたり、いのちにかかわるような高熱を下げたり、がんが急速に広がっているときにがんの勢いを止めるといったことに関しては西洋医学の右に出る治療法はありません。その長所は大いに活用すべきです。しかし、万能ではありません。ホメオパシーや漢方薬、氣功など、代替療法もうまく使って、長所は生かし、短所を補い合うようにしたほうがいいでしょう。