私は、中国医学をいかにすれ ば科学的に説明できるか考えま した。思いついたのは「エネル ギー」と「エントロピー」で説明 できるのではということでした。 体はエネルギーを取り入れることでさまざまな反応が起こって生命を維持します。同時に、エネルギーを取り入れるだけでは体の中の秩序が乱れます。家の中でも、あれやこれやと買い込むばかりでは乱雑になってしまいます。断捨離が流行っていますが、不要なものはどんどん捨て ていかないといけません。そうやって家の中が整理整頓できるように、体もエネルギーを入れるばかりではなく、いらないものは捨てることが大切です。いらないものが増えて乱雑になることを「エントロピーが増大する」 と言います。つまり、健康でいるためには、エネルギーを入れつ つ、増大したエントロピーを捨てていくことにも目を向ける必要 があります。
私は、エネルギーをいかに効 率よく取り入れ、使うかという 部分を西洋医学が担当し、エントロピーを減少させることを中 国医学がやるのではと考えました。エントロピーが増えると、 体はモノや熱にくっつけて外に 捨てます。吐く息、汗、大小便、 熱が、エントロピー減少の役割を担っているのです。漢方薬でも、汗を出させたり下痢をさせ たり小便を出させて体調を整 えます。まさにこれはエントロピーを減少させるという作用だ と、ピンときたのです。そうい う目で中国医学を見ると、漢方 薬だけでなく鍼灸も気功も食養 生もすべてエントロピーと関係しています。
生命現象のうちのエネルギー 的な側面は西洋医学が担当し、 エントロピー的側面は中国医学 が扱う。それなら、どちらが優れているかと競うのではなく、補い合える関係にあると考えてもいいと思います。両者を併せる ことで生命現象を広く扱えることができます。より大きな体系 医学になります。その結果、治療効果も高くなるはずです。
そんなことを説いて回っていました。
病気を治したり健康を維持 するには、外から薬やサプリメントを入れるというのが常識に なっています。体にいい食事を しようというのも同じ発想です。 もちろん、それも方法のひとつ ですが、その一方でエントロピー を減少させることも考えないといけないのです。その方法として 私が注目したのが呼吸法でした。 私たちは無意識で呼吸をしていますが、吸ったり吐いたりを意識的にしようというのが呼吸法です。氣功も呼吸がとても大切 ですから呼吸法の一種だと考えていいでしょう。あるいは、呼吸 法が氣功の一種だという言い方もできます。
エントロピーを捨てるには、大小便や汗もありますが、これらはなかなか自分ではコントロー ルできません。その点、呼吸法は いつでもどこでもできます。電車 やタクシーに乗っているとき、吐く息に意識を向けて息を吐き切 ります。そうすると自然に息を 吸います。吸ったらまた吐き切る。それを繰り返すだけでも立 派な呼吸法です。呼吸を意識して歩くこともできます。
私は、体の中の不用なものを 虚空に帰すイメージで息を吐きます。エントロピーを外に捨てるには呼吸法がもっとも手軽で 簡単な方法です。世の中にはたくさんの呼吸法があります。気に入った呼吸法を思いついたときにやるだけで体調は変わってくるはずです。森全体のバランスが整ってくるのです。試してみ てください。