帯津良一
vol. 136

新型コロナウイルス(COVID-19)対策は?

必要以上に心配したり恐れたり不安になると免疫力が下がる

 世界中が新型コロナウイルスで大騒ぎしています。COVI D‒ 19と命名されたのでそう呼ぶことにします。

 ウイルスの蔓延というと、1918年の「スペイン風邪」が 史上最悪と言われています。半年で5000万人ほどが亡くなりました。1957年と68 年にはアジア風邪が流行し、数百万人の犠牲者が出ました。

 記憶に新しいところでは 2002年のSARS騒ぎです。 わずか数ヵ月で 26 か国に広がり、 8000人以上が感染。700人ほどの死者が出ました。

 私はSARSが大騒ぎになっているころ、中国へ行く用がありました。親しい人が亡くなりお葬式があったからです。スタッフは「こんなときに中国へ行かな くていいんじゃないですか」と反対しました。でも、お葬式ですか ら、次の機会にというわけにはいきません。どうしても、彼にお別れを言いたかったので、反対を押し切って出かけました。スタッフはスーツケースに山ほどのマスクを詰め込みました。私は基本的にはマスクは嫌いです。 医療者がマスクをしていると、私は「医療は格闘技だからマスクなんてしていちゃだめだ」と言ってきました。中には、「でも、タイガーマスクなんてのもいますよ」としゃれた切り返しをしてくる若いドクターもいましたが、 細菌やウイルスにびくびくしていては医者はやっていられないというのが私の考え方です。

 「医者は、いろいろな細菌やウイルスに感染して免疫力を高め るんだ」

 そんなことも言っていました。

 中国へ行ってもマスクはしませんでした。だいたい、あのころは中国人も欧米の人もマスクなんてしていませんでした。マスクをしていたのは日本人だけでした。

 今回のCOVID‒ 19 は、テレビで見ていると、中国でもみんながマスクをしていて、お店で買えなくなっています。日本の医療機関でも、マスクばかりで はなく、消毒薬、手袋が足りなくなっています。ウイルスによる感染も問題ですが、こうした物不足はさまざまな方面に影響を与えます。

 間違いなくSARSのときよりも深刻な状況になっています。 感染者も死亡者も「これは油断できないぞ」と思わせるくらいに日に日に増えてきています。

 ただ、必要以上に心配したり怖がったり不安になることはやめたほうがいいと思います。テレビや新聞はあまりにも騒ぎすぎという気もします。

 ウイルスに効く薬はありませんから、私たちが頼りにするのは自分自身の免疫力です。インフルエンザと同じで、感染しない人もいるし、感染しても発症するとは限りません。発症したとしても軽くすむ人もいます。重症になっても死んでしまうとは限りません。いくらウイルスが広がっても、免疫力が十分に働く体であれば、大事にはならないのです。免疫力を落すことはできるだけ避けたほうがいいでしょう。

 免疫力に一番大きな影響を与えるのはストレスです。心配や不安、恐怖はストレスです。なるべく大らかな気持ちでいること。来るなら来い! という気持ちでいることです。

細菌やウイルスとのすみわけがうまくできていないのが問題

 インフルエンザや今回のCOVID‒19といったウイルスがこれほど蔓延するのはどうしてでしょうか? 私が子どものころはいつも泥だらけになって家へ帰りました。手も洗わないし、うがいもしません。汚い手で食事をしていましたが、風邪もひかないし下痢もしませんでした。

 昔は、細菌やウイルスとのすみわけができていたのだと思います。抗菌だ、殺菌だと目くじら立てることなく、仲良く暮らしていました。ところが今はどうでしょうか。細菌やウイルスを悪者として排除しようとすれば、細菌もウイルスも生き残ろうとするわけですから、排除しようとする力に反発し、変異してより毒性が強くなることもあるでしょう。抗生物質を使えば耐性菌が現れ、さらに強い薬を使わないといけなくなることはよくあります。

 野生動物との関係でも同じです。昔は、熊も猿も自分たちの住処がありましたから人里に姿を現すことはめったにありませんでした。しかし、人が山林を壊してしまったために、山だけでは食べ物が足りなくなりました。そのため、殺される危険性もあるのに人里に降りて来なければならなくなったのです。

 細菌やウイルスも人間の横暴さに耐えられずに反乱を起こしていると考えてもいいでしょう。私たちは、こうした状況がなぜ起こったのかを謙虚に考えてみる必要があります。

 がんも早期に発見すれば怖い病気ではなくなりました。しかし、早期に発見すればいいというものでもないと思います。血液一滴でがんが見つかるという検査法が話題になりました。画像で確認できるもっと前にがんが見つかれば治療は簡単だろうと思いますが、がんがあることはわかっても、どの部位にどんな状態であるのかがはっきりしなければ治療のしようがありません。それに、放っておいても消えていくがんかもしれません。目に見えないがんが胃にあるとわかったら、胃を全部取ってしまうというのはちょっと乱暴な気もします。

 がん細胞も大きくなれば人を死に至らしめますから「悪者」と決めつけられ、排除の対象になっています。果たして早期に発見できればがんは撲滅できるのでしょうか。逆に、さまざまな弊害が出てくるかもしれません。

 がん細胞ももとはと言えば自分の細胞です。何かが原因で遺伝子に異常が起きて正常な細胞ががん化するとされています。その原因というのが、食生活だったりストレスだったりするなら、そこを修正して細胞ががん化しないようにすることを考えるのが根本的な治療です。

 がんや細菌やウイルスは病気のもとだからこの世から消してしまえという発想だけで病気が解決するとは、私には思えません。熊が人間を襲ったからと言って熊を絶滅させてしまったら、森の生態系が崩れて、新たな問題が起こってきます。

 仮に細菌やウイルスを全滅させることができたとしても、それで万々歳とはならないでしょう。

 ワクチンや抗生物質が発明されたおかげで感染症は撲滅されたと言われました。しかし、残念ながら人間は感染症と無縁にはなれませんでした。もぐら叩きのように、一つが解決しても、また別の問題が顔を出します。今回のCOVID‒ 19 の騒ぎも、人がどう生きればいいか、課題を突き付けられているような気がしてなりません。