新型コロナウイルスの感染者 もかなり少なくなりましたが、 「これで大丈夫」と安心できない人も多いかもしれません。第二 波がくるという不安が拭い去れないのだと思います。
私は半世紀以上、がんの治療にかかわっています。数えきれないほどの患者さんを診てきましたが、治療法に振り回されて亡くなってしまう患者さんはたくさんいます。書籍やネットには、「これでがんが治った」という情報があふれています。患者さんは迷います。いいと思った治療を手あたり次第に試す人もいますが、そうなるともう負け戦です。 私は、必ず効く治療法はないと思ってくださいとお話しています。特効薬を探すのではなく、自分に合った治療法は何かを、自分で考えたり、主治医に相談したりして決めることが大切です。
同時に、治すことばかりに意識を向けずに、生きること、死ぬこと、いのちについて考えてくださいと、私はアドバイスしています。
新型コロナウイルスも同じだと思います。ワクチンだとか治療薬とか、そちらに目が向きがちですが、せっかくの機会ですので、もっと根本的なことを見つめてみるのもいいのではないでしょうか。
私たちは、だれもが「生老病死」というお釈迦様の言う四苦を避けることはできません。4つ のステージを、だれもが体験してから、あちらの世界へ旅立って行きます。もし、四苦を忌み嫌うべきものだと考えれば、その人は苦痛の中で一生を過ごすことになります。
がんになった人は、病というステージに立たされています。 そして、死というステージが目の前にちらつきます。しかし、それは決して特別なことではありません。自分だけが不幸なわけでもありません。運が悪かったわけでも、悪魔に魅入られたわけでもありません。だれもがいつかは体験することです。人は老いて病んで死ぬものだということを必然として受け入れ、今を見つめることが大切です。それが「養生」の基本だと私は思っています。
しかし、がんという病気になれば、人生の大ピンチであることには違いありません。野球で言えば、ヒットを打たれればサヨナラ負けになるピッチャーのようなものです。結果的にはひとりで踏ん張るしかないのですが、グランドには8人の仲間がいることも忘れてはいけません。ベンチには、監督もコーチも応援してくれる控えのメンバーもいます。声を枯らして声援してくれている観客もいます。
「自分だけ」と力んでしまうといい結果は出ないものです。ピンチであればあるほど、まわりを信じて、まわりから力をもらって、それを希望と勇気にして前へ進むことです。
私は、がんの患者さんの相談に乗るときには、自分が監督とかコーチになったつもりで患者さんを観察し、状況をしっかりと把握して、もっとも適切なアドバイスができるように努めます。弱気になっているようだったら、「よしやるぞ」と思えるような言葉をかけないといけません。家族の方にも、どうサポートすればいいかを指示するのが、私の役割だと思っています。
私はよく、患者さんやご家族と、戦略会議なるものを開きます。そのとき、治療法の話もしますが、もっとも力を入れてお話するのが養生のことです。養生法と健康法を混同している方が多いようですが、からだをいたわって病気にならないようにするのは、養生法でも「守りの養生」だと、私は言っています。大事なのは生命場を高めるための「攻めの養生」です。戦略会議では、生命場を高めるにはどうしたらいいかを、徹底的に話し合います。