宇宙はひとつだけではないと宇宙物理学では言われています。水を沸騰させたときにブクブクと出てくる泡のように、たくさんの宇宙が現れては消えていくのだそうです。それを包み込んでいるのが虚空です。
虚空はいのちの故郷で、私たちはたった一人で虚空からやって来て、虚空に帰っていく孤独な旅人です。私たちは虚空の一部です。常に虚空とつながっていて、虚空からエネルギーをもらって生きていますから、だれもがとてつもない力を秘めています。
延命十句観音経は、白隠さんが作ったものではないようですが(白隠さんが作ったという説もあります)、白隠さんはこのお経を唱えることで虚空とのつながりが深まると考えたのでしょう。民衆に、延命十句観音経を唱えていれば奇跡的なことが起こると説き、日本中に延命十句観音経のブームを起こしました。
『延命十句観音経霊験記』という本も著しました。そこにはさまざまな霊験が記されています。翌日は死刑が執行される罪人がいました。夢に現れた仏様から「延命十句観音経を1000回唱えれば死刑を免れる」とのお告げを受けました。彼は必死で唱えました。牢屋から刑場へ行く途中も唱え続け、刑が執行される直前で1000回に達しました。目隠しされ、刀が振り下ろされました。すると、何と刀が真っ二つに折れてしまいました。
とても治らないだろうと思われていた重病の患者さんでしたが、家族が一晩中、延命十句観音経を唱えたところ、奇跡的に回復したという話も出ています。
この本を読んでいると、わずか十句の短いお経ですが、その効力には驚かされます。ところが、たくさんの奇跡を紹介したあと、白隠さんは最後にこんなことを言うのです。
霊験はいくらでもあるけれども、そんなのは大したことではない。このお経を唱えることで臍下丹田が爆発し、虚空と一体になることが大事なのだ。
呼吸法のときと同じです。
私たちは、目先のことにとらわれてしまって、本当に大切なことが見えなくなることが多々あります。病気を乗り越えるという言い方がありますが、病気は乗り越えるのではなく、人生の一部として受け入れて、ともに生きていくものです。死も同じです。だれもが必ず死にます。死を忌み嫌ったり遠ざけようとするのではなく、懐かしい虚空への旅立ちとして、ある年齢になったら楽しみにするくらいがいいのではないでしょうか。
私は延命十句観音経を20年以上、1回だけ、心を込めて大きな声で唱えています。これから新しい一日が始まるとすがすがしい気分になることができます。
このお経は、虚空への宣言だと思って唱えています。自分はこう生きるんだということを虚空に伝えます。そうすると、虚空から応援のエネルギーが届くのではないでしょうか。
悩んでいることがあったら、虚空に助けを求めるのもいいですが、それだけではなく、自分が何をしたいのかをきちんと伝えてみてください。虚空には無限の力があって、必ずいい方向に導いてくれます。