60年もがん治療の現場にいますから、驚くような回復を見せてくれる患者さんにもたくさんお会いしました。どうして劇的に良くなるのだろう、といろいろ思いめぐらせてみると、ある共通項に気がつきました。
みなさん、いい場に身を置いているのです。
いい家庭、いい職場、いい医療の場、いい学びの場・・・。いい場というのは、いのちのエネルギーを日々高め続けている人たちが集まった場です。夢や目標をもって生きている人たち、こころをときめかせながら生きている人たち。そんな人たちが集まっていると場のエネルギーは高くなります。そこに身を置く人も場のエネルギーの影響を受けて生命力が高まり、病気になりにくくなるし、進行したがんになっても、奇跡的に回復することがあるのです。
しかし、いくらいい場であっても、本人がエネルギーを高める努力をしないといけません。ある会社員の方でしたが、かなり進行した胃がんの手術を受け、退院して間もないうちから仕事に復帰し、まだ下痢が続いているのに、あちこちに出張をしていました。奥さんも心配して、何度も私のところへ相談に来られました。
彼から話を聞くと、仕事をしているときが一番楽しいと言います。家でじっとしているとストレスがたまり、仕事をすることでストレスを発散するというタイプだったのです。かと言って、家庭をおざなりにしているわけでもありません。家族との時間も大切にしていました。彼は、家庭や職場という場に支えられ、自らも大好きな仕事をすることでいのちの場を高めていたのです。
「仕事に打ち込んでいればウジウジしている暇もないし、余計なことを考える時間もありませんから、それが良かったのかもしれません」
手術をしたとき、主治医からは「余命1年」を宣告されていました。そんな状態だったのに、手術後の回復は目覚ましく、あれから20年近くなりますが、とても元気に活躍されています。太極拳にも取り組んでいて、今は指導者としてがんばっています。
どんな困難に遭遇しても粘り強く乗り切ってしまう勁(つよ)さが彼にはあります。それを支えたのが家庭の場であり、職場の場だったと私は思います。場の力が彼を窮地から救ったのではないでしょうか。
いい場とはどういうものでしょうか。
『星の王子さま』という物語をご存知かと思います。その中に、次のような言葉があります。
《われわれのそとにある、一つの共通の目的によって同胞たちに結ばれるとき、われわれは初めて呼吸することができる。また経験はわれわれに教えてくれる。愛するとは、たがいに見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見ることだ》(山崎庸一郎訳『サン=テグジュペリの言葉』彌生書房)
いい場を創るのも、愛することと同じで、お互いに見つめ合うのではなく、皆が同じ方向を見つめることが大事なのです。共通の思いをもって、共通の目標に向けてまなざしを注ぐことが「場」を高めるポイントなのです。
ただし、同じ方向を見ると言っても、皆が猪突猛進することではありません。それでは烏合の衆になってしまいます。
大切なのは、その場にいる人たちがそれぞれ自分の役割を自覚し、一生懸命に役割を果たすために立ち働きながら、そこに整然とした統一が作り上げられることです。それが私が考える「いい場」なのです。
レストランでもホテルでも、従業員の一人ひとりが、お客さんをこころからおもてなしするという目標をもって、それぞれの役割をしっかりと果たしているところは、本当に気持ちよく食事をしたり宿泊することができます。いい場が創り上げられているからです。