帯津良一
vol. 130

輪廻転生はロマンではなく、エネルギー不足の証拠

私たちのいのちはビッグバンから 150憶年の旅を続ける

 「いのち」の循環をテーマに講演をすることがよくあります。私はいのちは循環していると考えています。

 私たちのいのちは、両親からいただきました。そのいのちは両親の両親、私たちの祖父母からもらいました。さらにそのいのちは・・・と見ていくと、宇宙の始まりにまで行き着きます。

 宇宙の始まりと言うと「ビッグバン」です。宇宙に始まりがあったかどうか、その確証があるわけではありません。しかし、今の定説では、約150億年前に起こったビッグバンと呼ばれる大爆発によって、超高温で超高密度の状態から急膨張が始まり、その後、急激に温度が降下して素粒子ができて、今の宇宙ができたということになっています。それが正しいとすれば、私たちのいのちも150億年前に誕生し、連綿と続いてきたものと考えられます。

 150億年の旅を続けてきた私たちのいのち。長く旅を続けているうちにエネルギーを消耗します。どこかで補給をしないといけません。その補給場所が地球なのです。私たちのいのちは肉体をまとって地球で数十年を過ごします。その間に、エネルギーを補給して生まれ故郷に帰っていくのです。その生まれ故郷が、私は「虚空」だと思っています。

 地球でいい加減に生きていてはエネルギーを補給することはできません。自分に与えられた役割をしっかりとまっとうし、人や社会のために役に立つ生き方をしてこそ、エネルギーは補給できます。日々、ときめきをもって生きることも大切です。

 しかるべきときがくれば、肉体を脱ぎ捨てます。そして、蓄えたエネルギーを使って虚空への旅に出ます。それが「死ぬ」ということです。

 帰りは150憶年もかかりません。49 日で戻れます。

 そんな話をしていたら質問がありました。

 「仏教には輪廻転生という考え方があるけれども、それはどうなのですか?」

 よくされる質問です。私はいつもこう答えています。

 「輪廻転生は追試験です」 つまり、虚空へ戻ろうと思って旅立つのですが、エネルギー不足でまた地球に戻ってきてしまうのです。そして、また人間として地球でエネルギーを蓄え直して、再び、故郷へ帰る準備をすることです。

 輪廻転生は、ロマンチックに語られることが多いのですが、私はロマンでも何でもない、単なる「落第」に過ぎないのだという話をして、輪廻転生を夢のある話だと思っている人には嫌われています。

 私は、輪廻転生などまっぴらです。死ぬ直前までいのちのエネルギーを高め続けて、ものすごい勢いであちらの世界に飛び込んで行ってやろうと思っています。地球はエネルギーを補給するのにとても役に立ってくれたありがたい場所ですが、それ以上でも以下でもありません。落第などごめん被って、一刻も早く本来の故郷に帰りたいと思います。

大学時代、ぎりぎりのところで 落第を免れた思い出

 追試験や落第について話していて思い出したことがありました。

 東大の医学部に入ったときのことです。医学部に入れたことにほっとしてほとんど勉強をしませんでした。解剖学の試験で「脳を図示せよ」という問題が出ました。私はあまり授業に出ていなかったし、人間の脳のことを細かく覚えてなかったのでうまく描けませんでした。いろいろ考えて、高校時代の生物で習った脊索動物の脳を描くことにしました。そしたら追試になってしまったのです。

 10人くらいが教授の部屋に呼ばれました。教授は答案を一枚一枚チェックしました。そして、私のを見たときにこう言いました。

 「帯津君。君は脊索動物の脳を描いたんだね。そうか、問題には『人間の脳』とは限定しなかったからな。君は帰っていいよ」

 ほっとしました。みんながうらやましそうな顔をして見ていました。私は、「悪い、悪い」と言いながら教授室を出て行きました。

 「脳を図示せよ」

 という問題が出れば、だれでも「人間の脳」を描かないといけないと思ってしまいます。私の場合は苦肉の策でしたが、それが見事に成功しました。何事も、思い込みを捨てて、柔軟に考えないといけません。そのことを学んだ出来事でした。

 もうひとつ、追試騒ぎがありました。それは卒業間際のことです。そのころの私はスキーに凝っていて、試験が終わるや、一人で蔵王に出かけました。そして3週間もスキー三昧の毎日を過ごしていました。豪勢なものです。

 下宿へ帰ると大学の教務課からはがきが届いていました。読んで真っ青になりました。あなたは循環器の試験に落ちたので〇月〇日までに教務課へ出頭しなさいという内容でした。その日はとっくに過ぎています。

 慌てて教務課へ行きました。面倒見のいい課長がいて、「教授に話してあげる」と力になってくれました。

 すぐに教授室に行きました。説教をくらうのかとびくびくしていました。そしたら、意外にも教授は「あなたは追試に合格だ」と言ってくれました。

 「あなたはいつも真面目に授業を受けてくれている。だから追試は合格」

 なんとも粋な教授じゃないですか。

 「はい、ありがとうございます」

 私が立ち上がると、

 「ひとつだけ言っておくことがある」

 そう言うので緊張しながら教授の言葉を待ちました。

 「これからは東大を出たからと言って通用する時代ではないよ」 今でも耳に残っています。

 落第はしませんでしたが、いくつもピンチはありました。輪廻転生も、あまりすすめられることではありませんが、そうなったらそうなったで、いろいろな人と出あって、たくさん学びを得て、今度こそ、故郷へと旅立てるようにしてください。