21世紀の文明を予測して書かれた『文明の未来』という本があります。ジェラルド・セレンティというアメリカ人の著書です。1990年代の本ですが、医療はどんなふうに予測されているのだろうと見直してみると、西洋医学に代わって「オルターナティブ・メディスン」が出てくると書いてありました。オルターナティブ・メディスンは、日本語にすると「代替療法」ということになります。
代替療法というのは、簡単に言えば、西洋医学以外の治療法のことです。確かに、現代は代替療法花盛りの時代です。西洋医学にかわるまではいきませんが、1990年代に代替療法の地位や認識が高まると予言したのは立派だと思いました。
長い歴史をもつ中国医学やインドのアーユルヴェーダ医学などの東洋医学、アメリカ・インディアンやアマゾンのインディオ、アフリカの諸部族や南太平洋の島々に住む人々が伝承した民間療法、アロマセラピーやホメオパシー、いろいろな食事療法、心理療法、すべて代替療法になります。
歴史ある伝統医療にかかわっている人たちは、「代替」という言葉に抵抗感があるかもしれません。西洋医学の歴史は数百年、東洋医学は数千年ですから、特に明治時代に西洋医学が入ってきた日本では東洋医学の方が医学の本家だという意識があるのかもしれません。しかし、世界がアメリカを中心に動いている現状からすれば、東洋医学を代替療法と呼ぶのも仕方ないことかと思います。
ただオルターナティブというのは、さまざまな意味があって、いわゆる代替品のような安っぽいものではないということも覚えておいた方がいいと思います。「社会通念を乗り越えていく」「現体制を乗り越えて向こう側に行く」という意味があります。
「オルターナティブ・ソサイエティ」というのは、直訳すれば「別の社会」となりますが、そのイメージというのは、「今の社会通念や価値観を乗り越えた新しい社会」という非常に希望に満ちたものなのです。
そう考えれば、「オルターナティブ・メディスン」というのは、現在の西洋医学中心の医学ではなくて、その先を行く医学のことです。代替療法にも夢が広がります。
では、西洋医学の先をいく医学とはどういうものでしょうか。
私は、西洋医学は「治しの医学」だと考えています。壊れた機械の部品を取り換えるように肉体を修理する医学です。これはこれでとても大切だし、病気を治すという意味で重要な役割を果たしてきました。しかし、それだけでは手に負えないがんのような病気が出てきました。これには西洋医学も手こずっています。なぜなら、西洋医学が得意としている領域は肉体で、がんのように、こころやいのちも関係してくる病気は苦手だからです。
そこで必要になってくるのが「癒し」とか「養生」ということになってきます。この「治し」と「癒し」が統合されて未来の医学となるのです。
今、代替療法がブームになっているのは、その過渡期だと考えていいと思います。これからは、西洋医学がいいのか代替療法がいいのかという議論は減っていって、治しも癒しもバランス良く含まれた医学になっていくのではないでしょうか。
今、日本では団塊の世代の人たちがすでに高齢者となっています。2025年には後期高齢者(75歳)になります。マスコミは超高齢化で大変なことになると騒いでいますが、私はそうは思いません。
バリバリと働いてきた団塊の世代の人たちが、肉体的な衰えを感じてきて、健康や長寿のことを考え始めます。彼らが考え行動することは、人数が多いだけに、世の中のトレンドになります。薬を飲むだけの老人では困ります。もっと意識を高めて、からだばかりではなく、こころもいのちも生き生きしているという老人を目指せば、医学は変わらざるを得なくなります。京大の本庶佑先生がノーベル賞を取って、免疫のことを多くの人が考えるようになりました。免疫を高めることで病気は予防できます。そのためには、何を食べてどう生きるかということがとても大切になってきます。そういうことがもっと多くの人に認識されていけば、自然に医学はいい方向に向かっていくはずです。
年寄りが増えることは悪いことではありません。病気になりやすい老人が、自分たちを守るための医学について真剣に考え始めることで、新しい時代の医学が出来上がるのです。今の老人は、そういう意味でとても重要な役割をもっているのです。