もうひとつ、大野さんを紹介する上で欠かせないのは患者会です。
20年ほど前、「工場を閉めて、病院で働きたい」と大野さんが言ってきました。当時、人を雇うのは簡単なことではありませんでしたが、大野さんは「夫婦2人が食べていければいいから」とわずかな給料でいいと言うので、患者さんたちの相談に乗ったり、氣功を教えるという仕事をやってもらうことにしました。
そのすぐあとに患者さんたちの集まりができました。特に名前もつけず、ずっと患者会と呼んでいます。
大野さんは患者会の中心人物として、よく動いてくれました。氣功をして、そのあと、みんなでお話をしていました。早朝練功と言って、月に一度、病院から車で10分ほどの公園で朝の6時くらいから氣功をします。私も参加します。その公園まで参加者を連れてくるのが大野さんの役割でした。
うちの職員になって何年かたったころ、大野さんは大きな家を建てました。その理由が、遠くから病院に来る人を泊めてあげたいということでした。早朝練功の前の日も、
何人かの人が大野さんの家に泊まって、大野さんの車に同乗して公園にやってきました。
毎年、年末には大野さん宅に40人ほどが集まって忘年会をします。そうやって自宅を仲間が集まれる場所として提供しているのです。
ほかにも、秩父の札所を巡礼したり、お花見に行ったり、富士山に登ったりと、いろいろ人のためにがんばっています。
私は、そういう生き方がいのちのエネルギーを高めたのだと思います。
それも、大野さんは当たり前のようにやっています。
「すごいですね」
よく言われるそうです。でも、彼にとっては当然のことだから、何がすごいのかわからないと言っていました。
人にやさしくしたり、人が喜ぶようなことをすると、特殊なホルモンが出ます。それが自分自身も心地よくし、自然治癒力を高めるのではないでしょうか。
その大野さんが、素人なりにがんのことを徹底的に研究してたどりついた結論が、「ガンは悪者なんかでなない」という著書のタイトルになりました。大野説によると、血流が悪くなると、すべての細胞に血液が行き渡らなくなるので、「自分は血液がいらないから、ほかの細胞にあげてください」という細胞が出てくるのです。それががん細胞です。
まるで人のために一生懸命にがんばっている大野さんみたいな細胞です。その考え方が正しいかどうかはともかくとして、がんの正体はよくわかっていないわけで、自分なりのがんに対する考え方をもつのはとても大切だろうと思います。人がどう言おうが、学問的にどうであろうが、自分がどう感じて、どう思うかを大切にすることです。
大野さんの考え方は、患者さんたちには非常に好評です。