たぬき湯は順調に業績を伸ばしていたが、豊子さんにはプライベートな面で悩みがあった。武光さんのことだ。
「夫との関係がうまくいっていなくて、夫婦げんかが絶えませんでした。けんかになると、ちゃぶ台をひっくり返したり、物が飛んできたり、大変でした。何度、別れようと思ったことか(笑)」
豊子さんは代々神主の家で生まれて育ったので、小さいころから神事が身近にあった。神道だけでなく、仏教、キリスト教など宗教的なことを勉強する機会もたくさんあった。霊的な能力のある人との付き合いもある。彼女自身にも、神を感じる力があった。
これまでの経験や感覚から、神が人に平穏無事な人生を与えはしないことはよくわかっていた。特に、神主の家に生まれるというのは何か役割があるはず。苦難を乗り越える力が必要な人だから、さまざまなハードルが置かれる。激しい夫婦げんかも、その一つに違いなかった。
とは言っても、肉体をもっている限り、悩めば落ち込むし、苦しめば体調が悪くなる。仕事は楽しかったが、たぬき湯をオープンしたころには、体も心もボロボロの状態だった。
そんなときに出あったのが真氣光という気功だった。ひかれるものがあった。しばらくして右手が急にしびれ出したこともあって、一週間の研修講座に参加した。見えない世界のことはたくさん勉強してきたが、足りなかったジグソーパズルの最後のピースを、その講座で見つけた気がした。
「気を受けたり講義を聞いたりして一日が過ぎていきます。何日目かではっとすることがありました。これまで、私のストレスの原因はすべて夫にあると、ずっと相手を責め、とがめてきました。でも、気を受けていて気づいたのは、すべての原因は自分にあるということでした。自分が変わらなければいけないのだと思うと、涙がとめどなくあふれてきました。バケツ一杯分も出たと思えるほど号泣したのです」
その講座をきっかけに、彼女の武光さんに対する態度はがらりと変わった。
「これまでは夫の寝ている姿や後ろ姿を見ると、『殺してやる!』というくらいの憎しみが湧き上がってきました。しかし、講座から帰ってからは、夫がいたからこそ、大好きなたぬき湯もオープンできたわけだし、『ごめんなさい』『ありがとう』という気持ちで夫を見ることができるようになりました。自分でも驚きました。
ああ、自分は変われたと、うれしくなってきました。そうすると、いい人と出会ったり、いいことに巡り合ったりするようになりました」
これまで顔を合わせると目を吊り上げてにらんでいた妻が、いきなり笑顔で接してくれるようになって武光さんも驚いたことだろう。最初は何か魂胆があるのかと思ったかもしれない。しかし、1ヶ月、2ヶ月、1年、2年と、ずっと笑顔の豊子さんがそばにいる。子どもたちも、従業員もニコニコしている。それにつられてお客さんもご機嫌だ。履物がなくなるといったトラブルもなくなった。いいことが次々と起こってくる。
そんなエネルギーの中にいれば、人は嫌でも変わっていくものだ。いつの間にか、武光さんも怒らなくなり、夫婦げんかのない穏やかな毎日を過ごせるようになった。
「すべてのことは意味があって起こっているのだと思えるようになって、イライラやあせりがなくなりました。新型コロナウイルスでお客さんは減りましたが、これも意味が起こっていると思うと、どっしりと構えていられます。
儲かりもしませんが、損もしません。日本人にとって温泉は癒しの場所です。それをぎりぎりでも維持させてもらっていることに感謝しています」
豊子さん自身、氣をしっかりと充電することで幸せをつかむことができた。たぬき湯に来てくださる人にもお風呂へ入ることで氣を充電してもらいたいということで、真氣光のグッズを使って、場のエネルギーを高める工夫をしている。もともとの素晴らしい泉質のお湯に氣のエネルギーが加わって、つかるだけで元気になれる、幸せになれる温泉が誕生した。
新型コロナウイルスにも負けない温泉。しっかりと氣を充電すれば、怖がらず不安にならず、現実をしっかりと見つめた上で、冷静に対処していくことができる。この温泉に入ると前向きになれると喜んでくれる人も多いと言う。
「たくさんの人にお湯につかっていただき、リラックスすることで免疫力を高め、次の時代に向けてのエネルギーを充電していただきたいですね」
たぬき湯の大切な役割である。
●たぬき湯
鹿児島市伊敷町4467
099-229-2607
http://tanukiyu.jp/