WEB限定記事

い氣い氣ピープル ハッピーライフ

by Yasuhisa Oharada

半分は自分のため、半分は他人のため。
快適な老人ホームを実現した

~岩手県・野田信雄さん

自分の幸せもまわりの幸せも考えて介護事業に

小原田泰久 「岩手県に素晴らしい特別養護老人ホームがあります。働いているスタッフも利用されている高齢者の方たちもすごく楽しそうにニコニコしていて、とても雰囲気がいいんです。施設長の野田さんが、家庭的なホームを作ろうといろいろ工夫されています」

そう教えてくれたのは、㈱エスエーエスのスタッフ・庄子和志さんだった。エスエーエスは、日々の生き方や気持ちの持ち方を変えることで生命エネルギーである気を高めて、より元気に、より幸せに生きようという提案をしている会社で、庄子さんは、2ヶ月に1度くらいの割合でそのホームを訪ね、気をうまく活用するためのアドバイスをしている。

これから高齢化がますます進む。高齢者が過ごす場所はとても重要になってくる。庄子さんがすすめてくれた岩手県の特別養護老人ホーム「久慈平荘」とはどういうところなのか、さっそく施設長の野田信雄さん(69)に話をお聞きした。

久慈平荘がオープンして約30年になる。

「平成2年10月1日にオープンしました。父親と一緒に始めた事業です。全国に特別養護老人ホームが建ち始めたころでした。苦労ですか? 初めてのことですから、すべてが大変でした。特に、寝た切りの方のお世話をしないといけないので、医療とどうかかわっていけばいいか、地域のお医者さんに相談しながら、少しでも安心できる環境作りをしようと考えましたね。

看取りもあります。生老病死のすべてのステージとかかわりますから、これまでやってきた仕事とは勝手が違いました」

野田さんはそれまで、寿司チェーンのお店を経営していた。岩手県内に店舗数をどんどん増やしていくつもりだった。華やかで将来性もあったビジネスを手放してまで、どうして特別養護老人ホームをやろうと思ったのだろうか?
「若いころ、少林寺拳法をやっていました。少林寺拳法には『半ばは自己の幸せを、半ばは他人(ひと)の幸せを』という理念があります。それが心に沁みついていて、自分の幸せにもなり他人の幸せにもなる事業とはどういうものかと模索しているときでした。父親から特別養護老人ホームを始めたいと相談されたとき、『これかな』とピンとくるものがありました」

ちょうど四〇歳近くのころだ。もちろん、お寿司屋さんでもお客さんの幸せに貢献できるけれども、もっと直接的に、人のためになり地域の役に立つことをやりたいと思ったのだろう。論語に「四〇にして惑わず」という有名な言葉があるが、まさしく野田さんは四〇にして自分の生きる道を見つけたのだ。

「ここは岩手県九戸郡洋野町大野と言いますが、この地域の高齢者の介護はすべてお引き受けする覚悟で始めました。今は、久慈平荘を中心に、ショートステイやデイサービスの施設なども備え、社会福祉法人みちのく大寿会というグループ全体で職員が94人います。地域の雇用にも少しはお役に立てているかなと思っています」

職員を大切にする姿勢が高く評価され表彰された

「久慈平荘の特徴は?」
 そう質問したら、すかさず答えが返ってきた。

「職員を大切にしていることです」

小原田泰久 働く環境を良くすることで職員が気持ち良く働くことができれば、結果的に利用者の方々が喜ぶ介護ができるという考えのもとでさまざまな制度を作って、職員を温かくもてなしている。人からやさしくされた人は、人にやさしくできるものだ。そして、長く務めることで、介護の技術も高まるし、職員間のコミュニケーション、利用者との関係も深まる。働く環境を良くすることで、さまざまなところにプラスの波及効果がある。気の活用も、職員や利用者さんが気持ち良く過ごせるための手段となっているようだ。
「岩手県では、『いわて働き方改革推進運動』というのが行われていて、県内の企業や福祉事業所などが参加しています。年に一度、積極的に働き方改革に取り組んでいるところが表彰されます。うれしいことに、一昨年は優秀賞を、去年は最優秀賞をいただきました」

 いかに職員が楽しく働ける職場にするか。長年試行錯誤してきた甲斐があったと、野田さんはとても喜んでいる。どんなことが評価されたのだろうか?

「まずは子育て支援です。小さなお子さんをもつ職員もたくさんいますので、保育料の半分を補助しています。また、職員が地元の大野に家を建てたり、購入すれば一時金として100万円を支払います。この町に移住して、うちの施設で働いてくれる人は大歓迎します。少しでも町を活性化したいという思いで始めました。

 それと、年次有給休暇ですが、いくらでもとれるようにしました。女性の職員が多いので、お子さんの学校の行事にも参加しやすいようにと思ってのことです。遠慮なく休めます。ただ、まとまって休まれると困るので、無条件ということではなくて、できるだけ希望に添えるようにしながら、主任クラスが調整して決定します」

 ほかにも、とても手厚い保険制度がある。三大疾病(がん、心疾患、脳卒中)と診断されると100万円、入院(2週間)すると20万円が支払われる保険に法人で入っている。安心して生活ができてこそ、人の役にも立てる。そのサポートを法人がする。質の高いサービスができるようになれば法人の評価も高まる。利用者の方も喜ぶ。とてもいい循環が出来上がっているのだ。

「利用者の方に対しては、全室に空気清浄器を入れて、感染症にならないようにしています。それに、老人ホーム特有のにおいもありません。食事もいい食材を選んで、できるだけおいしく食べてもらえるようにしています。食べることは楽しみですから」

 といった心配りもなされている。

 今年もうれしいことがあった。「日本創世のための将来世代応援知事同盟」という若手知事の集まりがある。その団体が、子育て支援、女性・若者をサポートする活動に対して、独自性・先進性のある取り組みを行なっている法人を表彰している。みちのく大寿会も、岩手県代表として推薦され、「将来世代応援企業賞」を受賞したのだ。

「半ばは自己の幸せを、半ばは他人(ひと)の幸せを」

 この少林寺拳法の理念が、高齢者介護の現場で見事に花開いた。三〇年前の転身は大成功だった。

「これからどうしたいか考えていますか?」

 野田さんの頭の中には、先々までのレールが敷かれているのだと思う。間を置かずに答えが返ってきた。

小原田泰久2025年は団塊の世代の人たちが後期高齢者になります。日本は、高齢化社会の本番を迎えます。これをクリアしていく必要があります。

 高齢化と同時に少子化も問題です。高齢者の人を支える若者が少なくなります。それに備えて、外国の方を職員として採用しています。今は、フィリピンの人が2人働いてくれています」

 日本人、外国人の区別は必要ない。だれもがだれかの役に立ちたいと思っている。そういう場を提供して、気持ち良く働いてもらうのが野田さんたちの仕事だ。

「日本人も外国人も、面接をして採用を決めますが、一番はやさしい人です。そして、笑顔のいい人。そういう人は、いい気を発していますから、まわりの人にもいい影響を与えて、職場の環境も良くなります」

 だれもが年を取る。できれば明るく老後を過ごしたい。笑顔に囲まれていたら最高だ。久慈平荘はそのお手本になる老人ホームではないだろうか。

久慈平荘

028-8802 岩手県九戸郡洋野町大野60-41-8

0194-77-2771(電話)

0194-77-2772(FAX)