帯津良一
vol. 126

いのちのエネルギーを高めて進行したがんを克服

<がんを契機に氣功を始め、ビワ葉温灸で体を温めた>

 昨年はうちの病院の初代の看護師長だった山田幸子さんが自分の看護師人生を本にまとめて出版しました。

 今年は、帯津三敬病院の職員である大野聰克さんが本を出しました。題して「ガンは悪者なんかじゃない」(風雲舎)。

 大野さんは28年前に直腸がんになって、私の病院で手術を受けました。がんは周囲のリンパにも広がっていました。当時の診断ではステージ4でした。今の診断基準で言えば第3期でしょうか。ステージの基準は時代によって変わります。

 けっこう広範囲に切除したので人工肛門になりましたが、がんは取り切れました。とは言っても、再発の可能性は十分にあって、油断はできません。

 ところが、彼の場合、まったく再発の兆候もなく、今にいたっています。

 なぜ、再発しなかったのか、彼の本を読むと、その理由がわかる気がします。

 彼は徹底的にいのちのエネルギーを高めることを実践しました。

 まずは氣功です。大野さんは病院の近くに住んでいたということで来院されました。うちが西洋医学ばかりではなく中国医学や代替療法を使ったがん治療をしているとは知りませんでした。入院してからそのことを知って、氣功が大好きになりました。

 毎日道場へ通って、氣功に励みました。

入院中の2ヶ月ほどで太極拳をマスターしました。退院してからも、毎日、道場へ顔を出し、氣功をやったり、患者仲間と話をしたりしました。

 病気になる前の大野さんは、小さな町工場の社長をやっていましたので、納期に追われる多忙な日々を送っていました。休みの日も、仕事に出ることもあったし、仕事がなければ疲れて寝ていたそうです。会社経営も楽ではなったでしょうし、相当なストレスを抱えていたはずです。

 彼は退院してから生活をガラリと変えました。仕事は従業員に任せて、本人は氣功三昧の毎日を送っていました。

 氣功がうまくなると、ほかの人にも教えてあげることができるので、それも生きがいになったようです。

 ほかにも、ビワ葉温灸が彼は好きだったようで、自分でやったり、まわりの人にやってあげたりするのが楽しくて仕方なかったと言っています。

 そうした人との交流によって、彼のいのちのエネルギーはどんどん上がっていきました。

<患者さん仲間が集まれるようにと、家を新築した>

 もうひとつ、大野さんを紹介する上で欠かせないのは患者会です。

20年ほど前、「工場を閉めて、病院で働きたい」と大野さんが言ってきました。当時、人を雇うのは簡単なことではありませんでしたが、大野さんは「夫婦2人が食べていければいいから」とわずかな給料でいいと言うので、患者さんたちの相談に乗ったり、氣功を教えるという仕事をやってもらうことにしました。

そのすぐあとに患者さんたちの集まりができました。特に名前もつけず、ずっと患者会と呼んでいます。

 大野さんは患者会の中心人物として、よく動いてくれました。氣功をして、そのあと、みんなでお話をしていました。早朝練功と言って、月に一度、病院から車で10分ほどの公園で朝の6時くらいから氣功をします。私も参加します。その公園まで参加者を連れてくるのが大野さんの役割でした。

 うちの職員になって何年かたったころ、大野さんは大きな家を建てました。その理由が、遠くから病院に来る人を泊めてあげたいということでした。早朝練功の前の日も、

何人かの人が大野さんの家に泊まって、大野さんの車に同乗して公園にやってきました。

 毎年、年末には大野さん宅に40人ほどが集まって忘年会をします。そうやって自宅を仲間が集まれる場所として提供しているのです。

 ほかにも、秩父の札所を巡礼したり、お花見に行ったり、富士山に登ったりと、いろいろ人のためにがんばっています。

 私は、そういう生き方がいのちのエネルギーを高めたのだと思います。

 それも、大野さんは当たり前のようにやっています。

「すごいですね」

 よく言われるそうです。でも、彼にとっては当然のことだから、何がすごいのかわからないと言っていました。

 人にやさしくしたり、人が喜ぶようなことをすると、特殊なホルモンが出ます。それが自分自身も心地よくし、自然治癒力を高めるのではないでしょうか。

 その大野さんが、素人なりにがんのことを徹底的に研究してたどりついた結論が、「ガンは悪者なんかでなない」という著書のタイトルになりました。大野説によると、血流が悪くなると、すべての細胞に血液が行き渡らなくなるので、「自分は血液がいらないから、ほかの細胞にあげてください」という細胞が出てくるのです。それががん細胞です。

 まるで人のために一生懸命にがんばっている大野さんみたいな細胞です。その考え方が正しいかどうかはともかくとして、がんの正体はよくわかっていないわけで、自分なりのがんに対する考え方をもつのはとても大切だろうと思います。人がどう言おうが、学問的にどうであろうが、自分がどう感じて、どう思うかを大切にすることです。

 大野さんの考え方は、患者さんたちには非常に好評です。