小原田泰久行動派たちの新世紀
vol. 202-2
月刊ハイゲンキ
2019年3月号 掲載記事

どうしたら空き家を有効に活用することができるか

小原田泰久 平日の昼間のイベントにもかかわらず、100人ほど入る会場は満席だった。ネクタイをしたビジネスマンが目立つ。どうも、不動産関係の人が多いようだ。空き家がビジネスの対象として考えられて始めているのかもしれない。ビジネスになっていかないと、なかなか物事は動かない。そういう意味で言うなら、アキラボの人たちの遊び心が、ビジネスマンのアンテナにもキャッチされるようになり、今ちょうど、地域を動かそうとしているというタイミングのようだ。

 同時に、今は空き家を活用するという側面からこの問題に取り組むには、時間的にぎりぎりのところにいるということも認識しておく必要がある。今、行動しないと、空き家に手をつけるのが難しくなってしまう。

 前号で、空き家の種類を紹介したが、一つひとつの空き家がどういう段階にあるのかを知るのもとても重要なことだ。

 第1段階としては、「人が住んでいないし、使ってない。しかし、所有者は特定されているし、所有者が管理している」という状況。第2段階は「所有者は特定されているけれども所有者が管理していない」。第3段階は「所有者が不明で、だれも管理していない」という状況。

 手が打てるとしたら第1段階か第2段階のところだ。空き家の所有者が不明になってしまうとアプローチができなくなる。特定しようと思えばできるだろうが、大変な時間と労力がかかるのは間違いない。

 今ならまだ大丈夫だが、これからはどんどんと所有者のわからない物件が増えてくることだろう。

 真氣光の観点から言うと、人の住んでいない家にはマイナスの氣が集まりやすい。所有者にもまわりの人たち、地域のエネルギーにもマイナスの影響を与えることがある。だれも住まずに古びていくだけの家には悲しみや寂しさのエネルギーが住みついてしまう。できたら有効に活用したいし、もし活用できないのなら家を壊して、さら地にしてしまった方がいいだろう。

 ただし、空き家を活用しようと思うと、とても柔軟な発想が必要になる。

 「空き家があるからだれかに貸して住んでもらおうということではなくて、空き家を介して地域の問題を解決していこうという積極的な考え方が大切になってきます。

 その建物がもっている価値を、単なる不動産の経済的価値ということではなく、もっと違う尺度で計る必要があります。

 今は、歴史的に価値がある建物が、経済性がないからと壊されて駐車場になっています。古い家をそのままにしておけばまったくお金を産まないので駐車場にした方がいいというのは、とても合理的な考え方ですが、時間を経過したものの良さをないがしろにしていいのかということを、もっと地域で考える必要があるのではないでしょうか」

 専門家から非常に意味のある提言がなされた。古い家は経済的な価値から言えば低くなる。だから、違うところに価値を見出さないと使ってみようという気にはなれない。

 ちょっと角度を変えて空き家を見ないと有効には活用できない。このあたりは、不動産を売り買いしているだけの業者では理解できないかもしれない。アキヤラボのようにいろいろな業種の人が集まって、知恵を出し合う必要がある。先ほども言ったような遊び心をもったビジネスを展開できるセンスがないと、空き家を扱うことは難しそうだ。

地域の人が集まり、子どもを預けて仕事ができる場に

 たとえばどういうことに使えるのか。パネルディスカッションでは、いくつも魅力的な案が出された。それが実現するかどうかはともかく、今はアイデアを出し合う時期なのだろう。

 いったいこの空き家を何に使うのか。その用途を考えるのが最初にやることだ。

 住むだけというのもありだが、何か地域のために役立つ活用法を考えたいというのが彼らの意図だ。そして、それが起爆剤になって、空き家のことをみんなが考えるようになればいい。そうなれば、空き家の所有者も何か有効利用できればと思うようになる。

小原田泰久

 たとえば、今は隣近所が疎遠になっているからもっとみんなが集える場所を作りたいと考えたとしよう。そのためにはどうするか。カフェを作ろうか。古い家は趣があって、みんなが落ち着いて話ができるだろう。

 次にその空き家が用途に合った空間かどうかを見る。ひょっとしたらカフェだけではスペースが広過ぎるかもしれない。カフェがそこを独占しなくていいじゃないか。じゃあ、何にする。ワーキングスペースはどうだろう。だれでもここへ来て仕事ができるような場所を併設しよう。ワーキングスペースを使うのは、地元の主婦の人が多いのではないだろうか。在宅で仕事をしたいのだけれども、子どもの面倒を見ないといけないという人も多いだろう。そういう人のために託児スペースも設けよう。近所の畑でとれた野菜を販売してもいい。

 時間もシェアできるかもしれない。カフェが閉店したあと、夜はバーにしてもいい。趣味の集まりができる場所にもできる。勉強会もいい。

 そうやって考えていくだけでも、一軒の空き家が生き生きと躍動し始める。エネルギーが満ちていく。

 地域の人たちが集まり、仕事をする人もいて、子どもたちが遊んでいる。そういう空き家が地域に一軒でもあれば、地域全体に変化が起きてくることは想像できる。

 全国的に廃校になった小学校を利用しようという動きも起っている。西多摩の方に、研修所として生まれ変わった小学校がある。宿泊ができてレストランがあって会議室や研修室がある。土日には各地からたくさんの人が集まってくる。地域をPRする部屋もあって、そこにたくさんの人が足を運んで、こういう場所なんだと知ってくれる。かつて子どもたちが学んでいた教室も再現されていて、小さな机に座って、昔を懐かしむ人もいる。

 子どもたちが集まってきて校庭を走り回っている。小学校を中心に、地域が元気になっていっているのがわかる。

 使わなくなった施設も含めて、活用できるものは上手に使うように工夫していく。そういう思いをもって、人が集まって話し合いをすれば、そこでコミュニケーションが広がっていって、地域は活性化していくはずだ。

 アキヤラボのような団体があることを知れば、空き家をもつことになった人も相談ができる。ある人は、実家が空き家になりそうなので、そこを子どもたちが放課後に遊べる場にしたいと相談を持ちかけてきたそうだ。地域のためならと、家賃は破格の安さ。こういう申し出をどう生かしていくか。そこは知恵の出しどころだ。

 今は負の遺産である空き家。しかし、考え方、使い方ひとつで、プラスに変えることもできる。空き家を何とかしようという団体は各地でできているはずだ。問題意識をもっている人も増えている。これからは、もっと多様で斬新な活用例が出てくるだろう。

 少子高齢化という大きな波はすでにきている。そこに飲み込まれて溺れてしまうのではなくて、その波に乗ってしまうことを考えていくことが、これからの時代を生き延びていくには必要なのではないだろうか。

 もし空き家をもっている人がいたら、どうすればその空き家を生かせるか、一考してみてはどうだろうか。