このガチャガチャに本の代金を入れる。上が300円用、下が500円用。お金を入れてガチャッとレバーを回すとプラスチックのカプセルが出てきて、その中にはビニール袋が入っているので、そこに本を入れて帰るという仕組みだ。800円だと上に300円、下に500円を入れる。1000円だったら下に500円を2回入れればいい。
なぜビニール袋なのか。買う人への心配りだ。無人の店舗だから、「盗んだと思われるのでは」と、まわりの目を気にしてしまう人もいる。袋へ入れることで「買いましたよ」と意志表示になる。
このお店のオーナーは大手IT企業のサラリーマンだそうだ。本が大好きで、家が本であふれ、奥さんに「何とかしてよ」と文句を言われたことがきっかけで、本屋さんをやろう! という気持ちになった。でも、自分には仕事があるから普通のお店はできない。人を雇ったら、確実に赤字になってしまう。
そんなときに、野菜の無人販売を見て、このやり方がひらめいた。
「こんなことやりたいんだ」とまわりに話しても、だれ一人「すごいね」「いいアイデアだね」とは言ってくれなかった。当然と言えば当然だろう。無人の本屋さんなんて聞いたことがない。まったく売れなかったり、ひどいときには盗まれて、「やっぱりダメだった」で終わりだろうと思われても仕方がない。普通の大人ならそう考える。
だけど、野菜の無人販売はあちこちにある。いつごろからあるのかはわからないが、最近の話ではない。代金を支払わない人が続出すれば、こんなに長くは続かない。人の性善説を前提にした商売が成り立つことを、野菜の無人販売は教えてくれている。本だって同じじゃないか。オーナーはそう思ったのだろう。
今の時代はユニークなことを始めれば、すぐにSNSで拡散される。
「無人の本屋だって。面白そうだ」
とばかりに口コミが広がり、あちこちから人が集まってきた。
ただし、だれもが反応するわけではない。面白いと思っても、実際にお店にくる人となると限られてくる。このオーナーは面白いことを言っている。
「無人の古本屋は、電車の中でお年寄りや体の不自由な人に席を譲るような人が利用してくれればいいのではないかと考えました」
やがて、このお店を中心にして、電車で席を譲るようなやさしい人のコミュニティができるのではないかと想像する。きれいではない。おしゃれでもない。たった2坪程度の小さなお店から、すてきな人たちの輪ができる。すばらしい物語ではないか。実現しそうな気がする。
もともと、本屋さんは文化の発信地だった。出版不況が長引き、いかに売るかに汲々としているところが多い。余計に人は離れていく。本をとおして人と人がつながっていく場所。この「BOOK ROAD」というヘンテコな本屋さんが注目されているということは、このお店に本屋さん復活のヒントがあるからではないだろうかと思う。