小原田泰久行動派たちの新世紀 vol. 206
月刊ハイゲンキ
2019年7月号 掲載記事

第一回やなせたかし文化賞を受賞 ~株式会社エクラアニマル

 正義のヒーロー・アンパンマンの生みの親であるやなせたかしさん。2013年に94歳で亡くなったが、彼の遺志を次代に残そうと「やなせたかし文化賞」が創設され、2月に第一回目の受賞者が発表された。文化賞に選出されたのがアニメ製作会社の「エクラアニマル」。同社の創立者の一人で、アニメ作品の監督、作画を担当する本多敏行さんにお話をうかがった。子どもたち、地域のために利益を度外視してがんばる不思議な会社だ。

純粋な気持ちで アニメを作りたいと 自主制作にこだわる

​ 「子どものためにがんばる人や団体に賞をあげたい」

 やなせさんはそんな思いをもっていたようだ。アンパンマンは困っている人に食べ物を届けるヒーロー。それも自分の顔の一部をあげる。顔をあげればパワーが半減するのがわかっていても、困った人を見るとあげずにいられない。まさに、無償の愛だ。「アンパンマン」という人懐っこいヒーローをとおして、やなせさんは子どもたちに本当に大切な生き方とはどういうものだろうということを考えてもらいたかった。

 やなせたかし文化賞は、子どもたちにやなせさんと同じようなメッセージを伝えようとしている個人や団体を表彰しようというものだ。小原田泰久全国の図書館や公民館がやなせたかし文化賞にふさわしい個人や団体を推薦。第一回目は72の個人、団体がノミネートされ、漫画家の里中満知子さんやちばてつやさんらが審査委員となって、受賞者を決定した。

 西東京市にある株式会社エクラアニマルは20年近く、地域の保育園や幼稚園、小学校でアニメの無料上映会を開催してきた。上映するアニメは、自主制作したもの。商業主義に流されない本当に良質なものを子どもに見せたいというのが同社のこだわりで、そうした姿勢が文化賞受賞につながった。

 テレビアニメよりも自主制作に力を入れてきた理由を本多さんはこう話す。

 「これまで数え切れないほどのアニメのヒーローがいました。みんな正義の味方です。そんなヒーローにあこがれて子どもたちが大人になれば、今ごろは世の中は正義の味方であふれているはずです。でも、現実には、嘘をついたり、お金儲けに走ったりする大人たちであふれているわけです」

 結局、商業主義の枠組みの中でアニメも作られていることが問題で、もっと純粋な気持ちでアニメを作りたいというのが、本多さんたちの思いだった。

 「もともとアニメのスポンサーになるのは創業者の人が多くて、彼らは子どもたちの未来のために投資すると言ってお金を出しました。それが、だんだん〇〇ホールディングスになって株主の利益が優先されるようになり、子どもたちが置いていかれています」

 今のテレビアニメの世界を見ると、必ずと言っていいほど、主人公を使ったキャラクターグッズとセットになっている。アニメがキャラクターグッズを売るための手段になっていのだ。アニメを見た子どもたちは親にグッズをねだる。親は「仕方ないね」と買ってあげる。それによってスポンサーにお金が入ってくる。そういう仕組みになっているのだ。ヒーローの正義感の裏にある大人の打算は、子どもたちにも伝わる。

 「作っている人たちが正義を示さないといけないと思って、人の喜ぶことをやろうと決めました。それでゴミ拾いを始めました。市民活動にも積極的にボランティアで参加してきました」

 まるでお金にならないことに力を注いでいる。そんなことを20年も続けている奇特な会社なのだ。今回の受賞は、そういった地道で利他の心にあふれた活動へのご褒美なのかもしれない。

保育園や幼稚園で無料上映会をすると子どもたちが喜んでくれる

 作品を作っては、それを図書館など公共施設で買ってもらい、次の作品につなげてきた。最近では国からの助成金やクラウドファンディングというインターネットでの資金調達システムを利用することもあるが、とにかくいつも綱渡りだ。

 最新の作品は、ちばてつやさん原作の「風のように」(2016年)。1969年の少女雑誌に紹介された短編の物語。養蜂家の少年が主人公で、彼が養蜂をとおして自然と共生しようとする姿を描いている。ちょうど高度成長の中で環境汚染が進む中、ちばさんは「このままではきれいな日本が壊されてしまう」という危機感をもって、この作品を描いたそうだ。今、自然との共生はそのとき以上に大切なテーマになっている。自然とともに生きるとはどういうことか、現代人に問いかける作品となった。

 「原作を読んでぜひアニメにしたいと思ってから何年もかかりました。ちば先生には『まだ死なないから大丈夫だよ』と温かく見守っていただきましたが、クラウドファンディングなどを使って資金を集めて、やっと出来上がりました」

 本多さんが監督を務めた。自分たちで絵は描けるから、その分、予算は少なくていいとは言うが、40 分の作品を作るには相当なお金が必要だろうと思う。スポンサーなしでやろうとしているのだから大変な苦労だったと想像する。それでもやり続ける。

小原田泰久 「保育園や幼稚園にアニメを見せに行くと、子どもたちが喜んでくれます。それが生きがいになっています。

自分の中では『燃えよドラゴン』のようなものを作りたいと思っているんですね。と言うのは、あの映画を見た子どもたちが外へ出てヌンチャクを振り回したじゃないですか。子どもたちをもっと外へ引っ張り出したいのです。子どもたちはアニメやゲームも好きだけど、外で友だちと遊ぶほうがもっと好きだと思います。それに、子どもが飛び回っている社会のほうが自然ですよ。そのためには、知らない人に声をかけたら逃げるというのはおかしいわけで、子どもたちが安全に暮らせる社会にしないといけません」

 アニメの嫌いな子どもはいない。良質なアニメを作って提供することは、健全な社会を作るために役立つはずだ。こういう会社があって、世のため人のためにがんばっていることを知っていただきたい。