「子どものためにがんばる人や団体に賞をあげたい」
やなせさんはそんな思いをもっていたようだ。アンパンマンは困っている人に食べ物を届けるヒーロー。それも自分の顔の一部をあげる。顔をあげればパワーが半減するのがわかっていても、困った人を見るとあげずにいられない。まさに、無償の愛だ。「アンパンマン」という人懐っこいヒーローをとおして、やなせさんは子どもたちに本当に大切な生き方とはどういうものだろうということを考えてもらいたかった。
やなせたかし文化賞は、子どもたちにやなせさんと同じようなメッセージを伝えようとしている個人や団体を表彰しようというものだ。全国の図書館や公民館がやなせたかし文化賞にふさわしい個人や団体を推薦。第一回目は72の個人、団体がノミネートされ、漫画家の里中満知子さんやちばてつやさんらが審査委員となって、受賞者を決定した。
西東京市にある株式会社エクラアニマルは20年近く、地域の保育園や幼稚園、小学校でアニメの無料上映会を開催してきた。上映するアニメは、自主制作したもの。商業主義に流されない本当に良質なものを子どもに見せたいというのが同社のこだわりで、そうした姿勢が文化賞受賞につながった。
テレビアニメよりも自主制作に力を入れてきた理由を本多さんはこう話す。
「これまで数え切れないほどのアニメのヒーローがいました。みんな正義の味方です。そんなヒーローにあこがれて子どもたちが大人になれば、今ごろは世の中は正義の味方であふれているはずです。でも、現実には、嘘をついたり、お金儲けに走ったりする大人たちであふれているわけです」
結局、商業主義の枠組みの中でアニメも作られていることが問題で、もっと純粋な気持ちでアニメを作りたいというのが、本多さんたちの思いだった。
「もともとアニメのスポンサーになるのは創業者の人が多くて、彼らは子どもたちの未来のために投資すると言ってお金を出しました。それが、だんだん〇〇ホールディングスになって株主の利益が優先されるようになり、子どもたちが置いていかれています」
今のテレビアニメの世界を見ると、必ずと言っていいほど、主人公を使ったキャラクターグッズとセットになっている。アニメがキャラクターグッズを売るための手段になっていのだ。アニメを見た子どもたちは親にグッズをねだる。親は「仕方ないね」と買ってあげる。それによってスポンサーにお金が入ってくる。そういう仕組みになっているのだ。ヒーローの正義感の裏にある大人の打算は、子どもたちにも伝わる。
「作っている人たちが正義を示さないといけないと思って、人の喜ぶことをやろうと決めました。それでゴミ拾いを始めました。市民活動にも積極的にボランティアで参加してきました」
まるでお金にならないことに力を注いでいる。そんなことを20年も続けている奇特な会社なのだ。今回の受賞は、そういった地道で利他の心にあふれた活動へのご褒美なのかもしれない。