勉強する会のメンバーは、草案に「国民主権」「外国人の権利」「子どもの教育」「地方自治の独立」など、今の時代でも参考にすべき重要な条文が並んでいることに驚いた。命をかけて自由を勝ち取ろうとした若者たちの情熱が伝わってくるようだった。
「若い人たちに憲法の大切さを知ってもらいたい。そのためには映像で伝えるのが一番だ」18歳以上に選挙権が与えられている。若い人たちが憲法をどう理解するかは、とても重要なことだ。
思い立ったが吉日。彼らは映画を作ろうと立ちあがった。しかし、だれも映画など作ったことがない。市民の知恵や力を借りるしかない。手探りの映画作り。市内の劇団に声をかけ、新井先生にも相談した。シナリオ作り、撮影、編集は自分たちでやった。そして、今年の4月についに40分の短編映画が完成した。
映画は女子高生が宿題で頭を悩ましているところから始まる。
「憲法って何だろう?」「憲法はどうやってできるのか?」
そんなことを考えたこともなかった。考える必要があるのだろうか。やる気のない女子高生。そこへ現れたのが、着物姿の青年。彼こそ、五日市憲法草案を起草した千葉卓三郎だった。
千葉は宮城県の生まれ。16歳で戊辰戦争に参加。手厳しい負け戦を体験した。その後、各地を転々としながら数学、医学、宗教など、さまざまな知識と経験を積んだ。頭脳明晰、知識も豊富、理論家でありリーダーシップもあった。五日市では、深沢家という豪農の庇護を受け、自由民権運動をこの地でも広げた。勉強会を開き、ついには憲法草案を作り上げた。
女子高生は、最初のうちは憲法のことを熱く語る千葉がうっとおしくてたまらない。憲法の重要性が彼女にはわからないのだから無理もない。
しかし、何度も千葉の話を聞くうち、徐々に憲法というのは、国民が自分たちの身を守る上でとても大切なものであることに気づく。もっと憲法のことを詳しく知りたいと、新井先生宅を訪ね(新井先生本人が出演している)、五日市憲法草案についてのレクチャーも受ける。そうやって彼女の目は徐々に開かれていくのだ。
この女子高生のように、五日市憲法草案を知ることで、憲法とは何か?ということを若い人たちに知ってほしいという意図が伝ってくる内容だった。
発表会の当日。80人の定員となっていたが、倍以上は入っていただろうと思う。椅子席に加えて、前方には座布団席。それでも席がなくて立ち見の人まで出る盛況ぶりだった。
地元で発見された歴史的な文書。全国的にとても注目されている。この地域に住んでいる方々にとっては誇りに思えるような存在で、「多摩地域が生んだ宝」という言い方をしている人もいる。
しかし、悲しいかな、観客は中高年ばかりだった。若い人の姿はまったく見つけることができなかった。若い人たちの憲法への関心は、映画の中の女子高生と同じレベルかそれ以下だろう。このままの状態が続けば、日本という国がどう変貌していくか、楽観的な気持ちになることはできない。
間もなく参議院選挙がある。その結果次第で、憲法を改正するかどうかの国民投票も現実化してくる。少しでも多くの人が憲法に関心をもち、きちんと自分の意志をもって投票が行われることを望みたい。