ハイゲンキ〜行動派たちの新世紀 vol. 213
月刊ハイゲンキ
2020年2月号 掲載記事

一人ひとりが原発問題を考え 行動する時期がきている

 地震と津波、それに加えて原発の大事故。あれから9年になろうとしている。あの後、始末はどこまで進んでいるのか。特に原発問題はもっと真剣に考える必要がある。再稼働だ、新しい原発の建設だという声も聞かれるが、日本の現状と未来を考えたとき、その方向性にはNo!と言いたい。

なぜ、あれだけの事故がありながら再稼働という話が出るのか

 真氣光では、先代のころから原 発問題には深く関心をもってきた。チェルノブイリ原発事故の被 ばく者やウラン採掘に従事したアメリカインディアンの人たちの後遺症の治療をとおして、放射 線被ばくがいかにたくさんの人を苦しめるかを目の当たりにしてきた。

村田光平 現会長も、原発問題と真剣に 向き合い、小出裕章京都大学助 教(当時)、村田光平元スイス大使、辰巳玲子さん(映画『ホピの予言』の監督・宮田雪氏の奥様)、 最近では大飯原発の運転を差し止めた樋口英明元裁判長らと対 談している。

 2011年の福島原発の強烈 な事故。これで原発論争には終止 符が打たれるはずだった。原発はいらない! そんな結論が出るとだれもが思ったに違いない。実 際、日本国内のすべての原発が止まった。原発が止まっても電気が なくなることはなかった。これで 原発なしでやっていける。ほっと胸をなで下ろした人も多かった だろうと思う。

 ところが風向きが変わってき た。2011年の衝撃が記憶から 薄れるにつれ、原発再稼働が言われ始めた。運転期限の 40 年が過ぎた東海第二原発まで動かそうとする力が働いている。新しい原 発を建てるという話もある。外国 へ原発を輸出しようと画策する動きもある。あれだけの大きな事故があって、たくさんの人が避難 を強いられ、故郷を失った人も少 なくない。今でも放射能は漏れ続けているのではないか、また事故 があったらもう日本では暮らせ ないのではと不安をもっている人がどれだけいるだろう。それなのに。何なのだろう、この動きは。とても理解できない。

 昨年の 12 月 16 日、東京・内幸町で行われた樋口英明さんの 講演会に参加した。樋口さんは 2014年に福井県の大飯原発 (3、4号機)の運転差し止め判決を出した裁判長(当時)だ。すぐ 向かいに東京電力の本社ビルが ある。なかなかの演出だ。

 月曜日の昼間の講演会。せっかくの樋口さんのすばらしい話なのにあまり人が集まらないだろうなと思いつつ出かけた。ところ が、会場に入ってびっくり。ほぼ 満席。あとで聞いたら180人く らいの聴衆が駆け付けたそうだ。 一番前の真正面の特等席が空いていたのでそこに決めた。腰を下ろして横を見ると村田光平さん がいるではないか。何年ぶりだろうか。 80 歳を過ぎているはずだ が、以前にお会いしたときと同じようにかくしゃくとされている。 20 年以上原発の危険性を訴えている。スイス大使まで勤めたエリート人生。原発の危険性を知ったら、自分のキャリアなどちっぽけなものだと、脱原発にまい進してきた。彼の正義を貫く姿勢を、今の政治家は見習ってほしい。

だれが見ても明らかに危険な原発を止めるのは当たり前

樋口英明  樋口さんの講演に先立って、村田さんがあいさつに立った。

 「安全神話が崩壊しながら再稼働を認めることは無責任・不道徳です。しかも原発の安全に責任 がないとする原子力規制委員会に再稼働を容認する権限を与えるお粗末さは恥ずべきことです。 『天てん網もう恢かい恢かい疎そにして漏らさず』の正しさを日本は実証しています」

 厳しい言葉を投げかけた。「天網恢恢疎にして漏らさず」とは、 天罰を逃れることはできないという意味だ。 9年前に嫌というほど 原発の危険性を見せつけられながらも、のど元過ぎれば熱さを忘れ、再稼働をしようとしている。その行為は、まさに天につばするようなものだと言う。今、国民一人ひとりが目覚めないと、さらなる悲劇が 起こるかもしれない。そこまで追い込まれているのが現状だと自覚しないといけない。

 平日の講演会に多くの市民が 駆け付けたことはひとつの光明だが、まだまだ加速が必要だ。意識の高い人たちを核として何が大切なのかを真剣に考え、議論する輪 を広げていかないといけない。

 樋口さんが登壇した。力みのない柔らかなトーンで話は始まった。静かな物腰であっても、揺るぎのない強固なエネルギーに包まれているのを感じる。

樋口英明 国策としての原発推進。それにストップをかけるのは勇気が 必要だったと思うが、樋口さんは 「論理的に考えれば答えは自ずと出る」と淡々と語る。専門知識とかイデオロギーといった難しい話をしなくても、普通の人が常識的に考えれば、原発の危険性はわかること。まして、事故が起こればどんなことになるのか、私たちは目の当たりにしている。

 だれの目にも明らかな原発の危険性。差し止めは裁判官として 「当たり前の行為」だと言う。しかし、福島原発事故後、原発の運転を止めた裁判長は2人しかいない。運転を認めたのは18人。なぜそんなことが起こるのか。多くの裁判官が「原発は安全なのかどうか」というもっとも大切な点を争点にしていないからだ。原子力規制員会が出した基準に合っていれば稼働を認めている。原子力規制員会は「安全に責任はもたない」とはっきりと言っているにも かかわらずだ。

 日本の社会は大きく歪んでしまっている。原発は危険だから止めましょうという当たり前のことが当たり前でなくなってしまっている。当然の判決を出す裁判長は1割の変わり者にされてしまう。

 政府や行政、司法が信じられなくなっているのは、さまざまな社会の動きを見ていればわかるはずだ。原発についても、国に任せる、従うという姿勢ではなく、自分たちが安全に暮らせて、希望ある未来を創るにはどうしたらいいのか、本気で考えて行動する必要がある。

 私たちにできることは何があるでしょう? 会場からの質問に樋口さんはこう答えた。

 「まずは事実を知ることです。 知った事実は大切な人に伝えてください。そして、原発由来の電力を使わないようにする。選挙も大切です。脱原発を訴える候補者に投票してください」

 1人の力は非力かもしれないけれども無力ではない。集まれば大きな力になる。樋口さんの締めの言葉に勇気をもらって会場をあとにした。

* 樋口さんは、本誌2019年6月号で中川会長と対談してい ます。