月刊ハイゲンキ〜行動派たちの新世紀 vol. 214
月刊ハイゲンキ
2020年3月号 掲載記事

ミツバチやハーブによって畑が地上の楽園になる

 2017年8月号の会長対談に登場していただいた高安和夫さん。銀座ミツバチプロジェクトの仕掛け人と言えば思い出していただけるかもしれない。一般社団法人トウヨウミツバチ協会の代表理事としてミツバチの魅力を伝えるだけでなく、環境や健康についても積極的に発信している。

大切なのは幸せ。幸せに生きる知恵をミツバチから知る

 ミツバチがいなくなると人類 は滅亡するとアインシュタイン が言ったそうだ。ミツバチは植物 が受粉して実をつけるのにとて も重要な働きをしている。受粉が できないと、実ができなくなる。 人間の食料になるのはほとんど の場合、実の部分。ミツバチが受 粉してくれないと、食べ物がなく なり、人類は生きていけなくな る。それを危惧したアインシュタ インのメッセージだろうと思う。  

 近年、ミツバチが突然姿を消し てしまう現象が問題になって、ア インシュタインの危惧した状況 が現実になった感があった。農薬 の影響だろうと言われている。

 ピンチが訪れれば何とかしよう という人が現れる。小原田泰久高安さんらの 活動を見ていて、ミツバチを守り広 げようとしている人がいることを 頼もしく感じた。高安さんばかり ではなく、世界中でミツバチの住み やすい環境を作ろうという運動が 起こっている。

 高安さんの話を聞いていると、 可能なら自分もミツバチを飼っ てみたいと思わせられる。実際に 銀座のビルの屋上でミツバチを 飼い、ハチミツをとって商品にし ているという行動力にも魅かれ るものがある。日本全国、あちこ ちで養蜂の指導も行っている。

 高安さんから「アーユルヴェー ダとハチミツ」というイベントの 案内が届いた。講師の上うえ馬ば 場ば 和夫 先生は、内科医師でありアーユル ヴェーダの専門家でもある。東西 医学の融合をライフワークとし ている方だ。

 アーユルヴェーダとは何か。イ ンドの伝統医学ということで知 られている。もともとはサンスク リット語で「生命の科学」という 意味だそうだ。健康法や治療法 のように思われているが、単に健 康長寿、病気治癒を目的とする のではなく、あくまでも一つの生 命体としてどう生きるのが幸せ なのかを追求する科学であり智 慧だと言う。

 「よく健康寿命という言葉が使 われるようになりました。いくら 長生きでも寝た切りでは意味が ありません。健康で長生きするこ とが大切だという考え方です。私 は、それをもう一歩進めて、幸福 寿命が大事だと思います」

(上馬場医師)
 そのためにも古代インドの宇 宙観が重要な役割を果たすとい うのが上馬場医師の考え方だ。  「現代社会は西洋的な二元論を中心に物事が進んでいます。善と悪、成功と失敗、損と得、生と死、病気と健康、あなたと私と、2つに分けて物事を考えたり判断したりするのが現代人です。その考え方が、政治や経済ばかりではなく、環境、医療、福祉、教育といったあらゆる分野でさまざまな問題を引き起こしています。

 その二元論が少しずつ崩れてきています。たとえば、コンピュータは0か1の二元論の世界でした。しかし、量子コンピュータでは0と1ともうひとつ、0でも1でもあるという要素が追加されて計算能力が莫大に大きくなりました。

 世の中というのは、白と黒だけに分けるものではなく、その間には限りないグレーがあるわけです」

 そういう考え方ができる人たちが、ミツバチの大切さに反応し、環境や健康のこともグレーの領域で考えようとしているのではないだろうか。

トゥルシーの花が咲いたら、畑が地上の楽園のようになった

 ミツバチは直接的に私たちに 幸せを運んでくれるわけではな い。はちみつを取ってそれで大儲 けして幸せになってやろうなど というのはいびつな考え方だ。そ んな幸せはいつまでも続かない だろう。

 ミツバチが快適に暮らせる社 会を作れば私たち人間も幸せに なれるはず。幸せへの道しるべが ミツバチでもある。ミツバチばか りではない。本来、人間は自然の 一部。にもかかわらず、二元論が はびこったために、「自然と人間」 という形で、人間は自然から離れ た存在になってしまった。さらに、 自然は人間が利用するためにあ るのだというおごった考え方が当 たり前となり、自然がどんどん破 壊されていった。

小原田泰久 そろそろ生き方、考え方を変え ないといけないのではと上馬場先 生は言う。ミツバチを利用するの ではなく、ミツバチから学ぶ姿勢 が人間には求められている。  

 上馬場先生のあとにお話して くれたのが茨城県常陸大宮市で 農家を営んでいる岸元もと春はるさん。農 薬も肥料も使わない自然栽培で 作物を育てている。震災があって 原発事故があって、力を入れて栽 培していたシイタケが売れなく なってしまった。農業で生計を立 てているわけだから、主たる作物 が売れなくなるのは死活問題だ。 さてどうするか。さんざん悩んだ 末に始めたのが、トゥルシー(ホー リー・バジル)の栽培だった。トゥ ルシーは薬草として非常にすぐれ ている。アーユルヴェーダでもよ く使われるそうだ。

 「1年目、2年目は十分に育ち ませんでした。専門の方に指導を 受けて、やっと育ってくれました が、感動です。  何が感動かと言うと、畑一面に トゥルシーの花が咲いたとき、ま るで別世界に行ったような喜びを 感じました。花はきれいだし、に おいもいいし、その上、たくさん の昆虫が集まってきました。ニホ ンミツバチ、セイヨウミツバチ、 ハナバチ、スズメガ・・・。トンボも 畑の中を飛び交っていました。ま さに地上の楽園がトゥルシーの畑 に作られました。

 こういう世界を作らないといけ ないと思いました。愛の世界です よ」

 二元論を超えた自然との一体感 に岸さんは酔いしれたと言う。

 トゥルシーの栽培は決して難し いものではなさそうだ。日本ホー リーバジル協会という団体があっ て栽培法を指導してくれる。種 も簡単に手に入る。使っていない 畑があるなら、自分の手で楽園を 作ってみるといいだろうと思う。 家庭菜園でいい。そして、ハーブ ティーを作って楽しむ。幸せで健 康な暮らしを作り出すことができ るのだ。ミツバチの巣箱を置けば おいしいはちみつも手に入る。そ んな生活ができたらどんなにかす ばらしいか。決して手の届かない ところにあるわけではない。