ハイゲンキ〜行動派たちの新世紀 vol. 217
月刊ハイゲンキ
2020年6月号 掲載記事

こんなときだからこそ、自分にできることで社会に貢献したい

 新型コロナウイルスによって、社会のシステムが大きく崩れている。人と人との接触が限定され、何となく世知辛くなってきた。しかし、その一方では自分にできることで少しでも世の中の役に立とうと動き出している人もいる。

コロナウイルスのおかげで地球の環境が良くなっている

 社会全体を不安や恐怖が覆っている。こんなときこそ「いいとこ探し」をしないといけない。実際、ちょっと視点を変えれば、「コロナのおかげ」と思えることは起こっている。

 たとえば、地球の環境。経済活動が停滞したことで、大気の汚染が改善していると言う。

 「大気汚染でどれだけの人が病気になって亡くなっているかわからない。コロナはたくさんの人を救ったことになる」

 そんな発言がSNSに流れた。確かにそのとおりで、コロナ騒ぎがなく、人間がこのまま地球を汚し続けたら、もっと大変なことになったかもしれない。

 イタリアではベニスの運河がきれいになって、白鳥やイルカが戻ってきたそうだ。観光客が減って、ゴミが減り、周辺のホテルやレストランも営業をしなくなって、運河が昔のきれいさを取り戻しつつあるのだろう。

 どれだけ人間が地球を汚していたのか。改めて、生き方を見直す大きなチャンスをもらった。

小原田泰久 100年前のスペイン風邪の大流行では世界で5000万人もの人が亡くなったと言われている。ちょうど第一次世界大戦の最中だったが、感染者がどんどん広がるので戦争どころではなくなった。スペイン風邪が第一次世界大戦を終結させたという見方もできる。今回のコロナ騒ぎでも、紛争どころではなくなって平和を取り戻している地域もあるはずだ。

 個人レベルで見ていくと、少しでも世の中の役に立つことをしようとがんばっている人がたくさんいる。私の知り合いの70代の女性。老後をのんびりと暮らしていたが、この騒ぎで、彼女は突然目覚めた。もともと洋裁の仕事をしていたことがある。その腕を生かして、ここぞとばかりにマスク作りを始めたのだ。

 「マスクが足りないと騒いでいたので、自分にできることは何かと考えたら、マスクを手作りすることでした。大した数は作れませんが、できたものを医療施設や福祉施設にプレゼントしています。喜んでもらってうれしいです」

 使わない布が押し入れにしまってあった。次々とマスクに変身していく。それをSNSで流したら、自分もやりたいと手を挙げる人が何人もいて、みんなで毎日、マスク作りに精を出している。

 「どれくらい役に立っているかわからないけどね」

 夜遅くまでやっているようで、眠そうに話してくれたが、できることで社会に貢献しようという姿勢は胸を打つ。

あちこちで小さなハチドリたちが がんばって動いている

 前号の対談に出ていただいた辻信一先生が、「ハチドリのひとしずく」というエクアドルに伝わる物語を紹介している。こんな話だ。 山火事が起こった。動物たちが慌てて逃げだすが、体長わずか10センチくらいの小さなハチドリだけ が湖の水を口に含んで消火活動を続けた。わずかな水だ。そんなので広がった火が消えるはずがない。ほかの動物たちはハチドリを笑った。ハチドリは言った。

 「私は私にできることをやる」

 小さな力を卑下することなどない。集まれば大きなエネルギー になる。やれることをやることが大切なのだ。一人でがんばってマスクを10枚作っても、世の中全体から見れば大して役に立たないように思える。でも、それをやり続けることで、応援がきて、10人でやれば100枚になる。さらに、その輪が広がれば、助かる人 がたくさん出てくる。

 「マスクがない」

 嘆いていても仕方がない。なければどうするのか。自分には何ができるのか。そう考えて行動することが次第にうねりになっていく。今、たくさんの人がマスクを作っている。私のところに何枚も送ってくれた方がいる。ありがたいことだ。それをまただれかにお分けする。

 いい話だと思うがいかがだろ うか。

 若い人たちが自粛要請に従わ ずに動き回ってウイルスを広げ ているという批判もあったが、若者たちとひとくくりにするのは 失礼だ。若い人たちも本当にがんばっている。

小原田泰久 西東京市の女子高生が市にマスクを2万枚寄付したというニュースがネットや新聞で紹介された。

 日本で育った中国籍の高校生たちが集めた。2万枚もよくぞ集めたと思うが、若い人ならでは で、ツイッターで募金活動をしたのだそうだ。日本語、英語、中国語のバージョンで寄付を呼びかけたら、1日で100人以上から52万円ほどが集まった。中国の人からもたくさんの寄付があったと言う。

 でも、お金は集まったものの、 どうやってマスクを手に入れるか。ただでさえも品不足になっている。

 女子高生たちはどうしたらいいかあちこちに相談をした。行動すれば応援がある。ある中国製品の輸入会社の社長が、彼女たちの思いに共鳴し、取引先に声をかけてくれて、2万枚のマスクを確保してくれたのだ。

 この女子高生がマスクを寄付しようと思ったきっかけはささ いなことだった。

 彼女の母親がマンションの管理人にマスクをプレゼントしてとても喜ばれた。マスク1枚でこんな にも喜んでくれるんだと彼女も感動した。お金を出せば何でも買える世の中で育ってきた。マスクなどいくらでも手に入って、1回つ けたらすぐに捨ててしまう。大切だと思ったことなどなかった。そのマスクが人を喜ばせている。若い感性で感じ取ったことがあるのだろう。まわりに声をかけたら、 賛同する人が集まってきた。

 彼女はハチドリだ。小さな体で何度も何度も水を運んで燃え盛る火を消そうとしている。最初は 「そんなことくらいで」と冷ややかに見ていたまわりの人たちも、心が動かされて、一緒に動き出す。それが2万枚のマスクにつながったし、心温まる物語として拡散されることで、世の中を明るくするという役割も果たした。

 マスクを買い占め、高価な値段で転売するような人もいるが、そんなことでいちいち目くじらを立てるのではなく、小さなハチドリたちのうれしい話に目を向けたいと思う。