小原田泰久〜行動派たちの新世紀 vol. 220
月刊ハイゲンキ
2020年9月号 掲載記事

農業を志すのもひとつの道。自然相手が向いている人もいる

 新型コロナウイルスの影響で、多くの人がライフスタイルを変え始め、田舎での生活や農業に目を向ける人が増えてきた。就農を真剣に考えている若者、田んぼや畑を始める年配者。7月から8月にかけて東京と大阪で「新・農業人フェア」というイベントが開催された。コロナ騒ぎ中、農業を志す人たちでにぎわっていた。

新規就農者のための研修会を行う自治体も増えている

 農業をやってみたい、興味があると思っても、都会のサラリーマンが一歩を踏み出すには何からやっていいかわからないのが現実だろうと思う。農地はどうするのか? 何を作るのか? 生活はできるのか? どんな道具がいるのか? 資金はどうするのか? 農業技術はだれから教えてもらえばいいのか? どこの地域でやればいいのか? 知りたいことは山ほどあるはずだ。そんな疑問や質問に答えようというのが「新・農業人フェア」の趣旨だ。実際に農業をやっている個人や団体がブースを出して、就農を希望する人の相談を受ける。

 今は農業が注目を集め始めているせいか、さまざまな制度が出始めている。農業経営者を育成する学校を運営している自治体もある。たとえば、日本有数の稲作地帯である山形県鶴岡市では、農業の基礎から始め、小原田泰久就農まで面倒を見ようという2年間のプロジェクトが始まった。元旅館をリノベーションした宿泊と研修の施設があって、研修(座学・実践)は週4~5回。稲作ばかりではなく、野菜や果樹の栽培も学べる。有機栽培が中心だというのも、これからの時代を見据えてのことだろう。実践を積むため、農家でのアルバイトも紹介してくれる。それで学費は年額12万円、宿泊費は月に1万円(食費別)。鶴岡市としては若者たちのUターンや移住を促したいという目論見があるのだろうが、農業をやりたい人にとっては、何ともありがたい企画だと思う。

 鶴岡市ばかりではなく、こうした研修制度を設けている自治体は全国にある。興味のある人はホームページで情報を集めてみるといいだろう(全国新規就農相談センターhttps://www.be-farmer.jp/など)。

 これまでは、大学を出たら企業に就職するのが当たり前のコースだった。今でもその考え方は根強いだろう。しかし、その“当たり前”に窮屈さを感じる若者も多くなっている。就職したけれども長続きしなかったり、職場に不適応を起こしてしまうと、「我慢が足りない」とか「甘えている」と非難されがちだ。本当にそうだろうかとひと息入れて考える必要がある。もっと選択肢はたくさんあって、自分に合った道は必ずあるはず。それが農業である若者は少なくないだろう。

 都会に暮らして会社に勤めることだけがすべてではない。狭い視野で生きていると体や心が痛めつけられる。もし、自分自身が、あるいは子どもが社会に不適応を起こしているとしたら、考え方を変えてみることだ。世の中を見る角度に変化をつけてみる。人工的なものを製作したり販売することには気持ちが乗らず、人間関係を築くのが苦手でも、自然の中で農作物を作ることに喜びを感じる人はたくさんいるはず。それなら、思い切って農業という世界に飛び込んでみてもいいのではないだろうか。

 それができる仕組みが、今は少しずつ整いつつある。どうしてもなじめずに会社を辞めたなら、次の就職先として同じような会社を探すのではなく、農業をやる道を探ってみるのも、自分を生かすひとつの方法だと思う。子どもが仕事が見つからないと嘆いているなら、農業はどうだろうかと話し合ってもいいのではないだろうか。

新規就農者を募集している農業法人に就職する手もある

小原田泰久 農業をやるというと、いきなり田んぼや畑を借りて独立しないといけないと思ってしまう人もいるようだ。田んぼや畑を借りるには資金がいるし、借りられたとしても、すぐに生活できるだけの作物ができるはずがない。まずは、先ほどの自治体で行なっている研修を受けるなどして、農業技術のノウハウを身につけないといけない。

 独立して農業をやることに不安があるなら、農業法人に就職するという手がある。これなら給料をもらいながら技術を身につけることもできる。いずれは独立してやりたいという人にもうってつけだ。

 農業法人というのは企業として農業を営む法人のこと。家族だけで設立した法人から従業員が数百人もいる法人もある。複数の作物を栽培している法人が多く、最近では加工や販売にも取り組み、観光農園やレストランを経営する法人も増えている。農業法人も多角化すればするほど、新規就農者が必要になってくる。農業をやってみようと思う若者を、農業法人は求めているのだ。最近では、社会保険、労働保険など福利厚生の面は整ってきていると言う。ただし、給料はそれほど高くない。しかし、いずれは独立しようと思うなら、お金をもらって研修が受けられるところにメリットを見出してもいいのではないだろうか。普通のサラリーマンと同じような安定性だけを考えてしまうと先に進めない。ちなみに、新全国新規農センターの調査によると(2010年)、初任給(月給)は高卒で14万~16万、大卒で14~ 20 万円だそうだ。

 農業法人に就職しようと思ったらどうしたらいいのか。

 まずは求人情報を収集する。ホームページで情報を集めてみる。全国新規就農相談センター、新・農業人フェア、公益社団法人日本農業法人協会などで全体の流れを見て、興味ある法人があれば、そこのホームページで調べてみる。

 農業インターンシップという制度を設けているところも多いので、数日間、泊まり込みで農業を体験し、その法人の雰囲気も感じながら、経営者や仲間たちと交流することもできる。農業インターンシップの情報は、全国新規就農相談センター、公益社団法人日本農業法人協会で探せる。

 インターンシップのいいところは、どんな法人かを自分の肌で感じることができることと、もうひとつは、都会でしか暮らしたことがない人なら、田舎での生活がどんなものかを少しでも体験できるからだ。生活環境ががらりと変わってしまうこともある。戸惑わないためにも、前もってどんなところで暮らすのか知っておくことも大切だ。

 年配者になれば研修への参加や農業法人への就職は難しいだろうと思う。今は少し田舎へ行けば、いくらでも耕作放棄地がある。そこを借りて、小さな規模でいいので、米や野菜を作ればいいだろう。農作業は適度な運動にもなって健康作りにも役立つ。

 農業を視野に入れて生活設計をすることで、毎日がより豊かになるのではないだろうか。